【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



 翡翠さんは私を「豊佳、こっち来て」とリビングの奥にある物置部屋と連れて行く。

「これだよ、レシピ」

「え、これ?」

 翡翠さんは私にそのレシピ本というのを見せてくれた。

「このレシピを再現したのが、あのハンバーグってことだよ」

「……なるほど」

 翡翠さんは、あの味をどうしても守りたかったんだ……。
 だからおじいちゃんの味をみんなに食べてほしくて、このお店をオープンしたんだ。

「俺も最初はあのハンバーグの味をちゃんと再現出来るまで時間かかったんだ。ちゃんとレシピ通りに見て作ってたのに、全然じいちゃんの味にならなくてさ」

「そう、だったんだね」

「でもどうしてもあのハンバーグを再現したくて、毎日必死に頑張ったんだ。親父にも何回も食べてもらったけど、違うって言われたりしてさ」

 翡翠さんがこのハンバーグを完成させるまでに、およそ一年半もかかったらしい。

「親父には諦めろと言われたよ。じいちゃんの味を再現することは、もはや不可能だって言われた」

「……でも翡翠さんは、諦められなかったんだね」

「ああ。どうしても諦められなかった」

 翡翠さんは、おじいちゃんの作ったあのハンバーグが小さい頃大好きだったらしい。どうやって作ってるのかレシピを教えてほしいとお願いしたが、教えてもらうことは出来なかったそうだ。

「親父もレシピを教えてもらうことは出来なかったんだってさ。 あのハンバーグは、俺にしか作れないってじいちゃんは言ってたらしいしな」

「……そうだったんだね」