【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



「なんとかして上司を説得するしか、ないのかな」

 それで解決したら話は早いけど……ね。

「まあそれで変わってくれるなら、苦労はしないってことだけど」

「そうなんだよね……。仕入れ担当から外されてまた仕事覚える苦労って、想像以上に労力を使うってことを身に沁みて感じてるよ」

 おかげでここ最近は残業が続いていて、定時に帰れなくなっているのが現状だ。
 私に経理事務の仕事を教えてくれている上司の人も、きっと苦労していることであろう。

「豊佳、もし転職考えてるならさ」  

 翡翠さんから唐突にそう言われて、私は「ん?」と翡翠さんを見る。

「うちの社員として働くってのはどう?」

「……え?」

 翡翠さんのお店で……働く? 私が?

「いや、うちも人手不足だし豊佳がもし良ければ、それもどうかなって思ってさ」

「なるほど……」

 それは考えてなかったな。

「無理にとは言わない、もちろん。 豊佳が決めることだから」

「うん」

 翡翠さんはコーヒーを飲みながら「まあ、そんなに深く考えなくていいから。 気が向いたらって感じで、全然いいし」と言ってくれた。

「わかった。一応頭の片隅には、入れておくね」

「ああ」

 どうにかして元の仕入れ担当に戻してもらえないか、交渉はしたいところだけど。……多分、無理だろうな。
 何度も話はしたけど、聞く耳すら持ってもらえない。 色んな人が交渉に動いているらしいけど、それこそ「上が決めたことだ」の一点張りだし。
 とても話を聞いてもらえるような雰囲気ではない。