【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



「ふふふ。ありがとう」

 翡翠さんは本当に褒めるのが上手だ。いつも「かわいい」とか「それもいいな」とか褒めてくれるので、翡翠さんのために一生懸命オシャレしようと思える。

「翡翠さんの前では、やっぱりかわいい私でいたいもん」

「そういうとこ、かわいすぎ」

「え?」

 翡翠さんが顔を近付けてくるから、私はビックリしてしまう。

「かわいいことばかり言うと、ここでキスするぞ」

「え……だ、ダメだよっ」

 こんな人前でキスなんて、恥ずかしいからダメ!

「じゃあ今日たくさんキスするから、覚悟しておけよ」

「え? ちょっと、それどういう意味?」

 翡翠さんにそう聞き返すけど、「そのままの意味だ」とはぐらかされてしまう。

「もう、翡翠さんってば……冗談なのかわからないよ」

「豊佳は冗談だと思う?」

「え? なにその聞き方?」

 ずるいよ、その聞き方!

「答えて。どっちだと思う?」

「……冗談じゃ、ない」

「じゃあその答えは……」

 私は翡翠さんに「その答えは……?」と聞き返す。

「今夜ベッドの中で、たっぷりと教えてやるよ」

「……っ!」

 耳元でそう囁かれ、私は思わず顔が赤くなってしまいそうになる。

「冗談だ」

「え?……なに、もう!」

 は、恥ずかしいんだけど……!

 翡翠さんの冗談が冗談に聞えなくて、私はいつも翡翠さんのペースに呑まれていってしまうのが悔しい。

「そういう反応の豊佳が、かわいいんだけどな」 

「からかわないでよ〜」