そんな他愛もない話をしていると、「失礼します」とドア越しに声が聞こえてきた。
「シェフの烏丸です。 本日はお楽しみいただけましたでしょうか?」
「ひ、翡翠さんっ!」
シェフ姿の翡翠さんの姿を見るのは初めてだけど、とても素敵だった。
「あなたが、烏丸翡翠さん?」
「はい。シェフの烏丸翡翠です」
聖乃は私の方に視線を向けると「ちょっと豊佳、めっちゃイケメンじゃん!」と小さい声で話してくるから、私もつい「でしょ?」と微笑む。
「あの……豊佳の彼氏、ですよね?」
聖乃が問いかけると、翡翠さんは「はい。お付き合い、させていただいてます」と微笑みを浮かべている。
「本当に……付き合ってるんだ?」
また私を見るので、「だから、ずっとそう言ってるじゃない」と言葉を返す。
「あの、烏丸翡翠さんは豊佳のどこが好きなんですか?」
聖乃が翡翠さんにニヤニヤしながらそう聞くから、私はそれを制止するように「ちょっと、聖乃!」と止める。
「フルネームで呼ばれるのはあれなんで、翡翠でいいですよ」
「じゃあ翡翠さん、翡翠さんは豊佳のどこが好きなんですか?」
翡翠さんを隣りに座るように促す聖乃は、嬉しそうに微笑んでいる。
「どこが好き……か。 そうだなあ」
少し考えた翡翠さんは、「豊佳は俺のハンバーグを初めて食べた時に、泣いてくれた人なんだよね」と話し始める。
「え……?」
「豊佳のそういうところに、俺は惹かれたかな」



