「翡……翠さん」
翡翠さんの優しさが、心の中まで染み付いて離れない。
「大丈夫、何も心配することはない。 豊佳は何も、心配しなくていい。俺がなんとかするから」
「……うん」
私は翡翠さんに抱きしめられながら、涙をそっと拭った。
改めて翡翠さんの優しさを感じることで、私は少しだけ強くなれるような気がした。
「はい。これ龍樹の連絡先」
龍樹の連絡先を書いた紙を翡翠さんに手渡すと、翡翠さんは「おう。 豊佳は、何も心配するなよ」と頭を撫でてくれる。
「うん。……信じてるから、翡翠さんのこと」
翡翠さんの顔を見つめると、「当たり前だろ。俺は豊佳の彼氏なんだから」と言ってくれているような気がした。
「気を付けてね、翡翠さん」
「ああ、大丈夫だとは思うけど……豊佳もアイツには気を付けろよ」
「うん。わかってる」
私は翡翠さんに手を降って玄関のドアを閉めた。
「……翡翠さん、ごめんね」
迷惑かけて、本当にごめん。 でも翡翠さんは優しいから、気にするなって言ってくれた。
元はといえば、全部アイツのせい。全部、アイツのせいなんだ。
龍樹と出会わなければ良かった。そうしたら、こんなことにはならなかった。
だけどよく考えたら、龍樹とこうなったからこそ翡翠さんと出会えた。
龍樹と別れてなかったら、翡翠さんと出会うこともなかったのでは……とは思う。
【翡翠さん、ありがとう】
翡翠さんに一言メッセージを送ると、私はスマホをテーブルに置いた。



