【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



「好きに……なれるのかな」

 恋をしたいという気分にはなれそうにない。だけど、一人は寂しいと感じるから私は矛盾している。
 どうしてこんなことになってしまったのか。未だに信じられない。
 母にも「今度こそ、豊佳は結婚すると思ってたんだけどねー」なんて言われてしまい、それもそれで落ち込んだ。

「私だって、幸せになりたかったよ……」

 周りの友達はみんな結婚して子供がいて、幸せに暮らしている。
 友達に会っても夫の話か子供の話ばかりだし、この歳になってくるとこういう話は辛くなってくる。
 でもよく考えたら、私は私だし、人は人。比べても仕方ない。

【豊佳、着いたよ】
 
 メッセージを受け取った私は、烏丸さんが運転する車の助手席に乗り込んだ。

「お待たせ、豊佳。待たせたな」

「いえ、大丈夫です」

 烏丸さんは助手席に乗り込んだ私の頭を撫でると、おでこにチュッとキスをした。

「え……?」

 烏丸さんは「待たせたお詫び」と微笑み、「じゃあ出発するぞ」とギアをドライブに入れ、車を走らせる。
 
「豊佳、もしもして緊張してる?」

「……まあ、はい」

「そんなに緊張しなくていいよ」

 そう言われても、緊張するものはする。

「豊佳は相変わらずかわいいな」

「はい?」

「いや、いつもかわいいけどさ」

「またそんなこと言うんですね……」

 かわいいと言われて嬉しい気持ちになるけど、やっぱりからかってるのでは……と思ってしまう。