【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



 悔しいけど、本当に美味しい。泣くくらい美味しいんだ。

「なあ、豊佳」

「はい。なんですか……?」

「本当は、泣くくらい好きだったのか?」

 私はそう聞かれて、ついハンバーグを食べる手が止まった。

「え……?」

「ハンバーグが美味くて、泣いた訳じゃないんだろ。……そんなに好きだったのか、その男のこと」

 真剣な眼差しで見つめられるから、烏丸さんから目が逸らせなくなった。

「それは……」

 確かに龍樹のことが好きだった。ずっと一緒にいたいと、そう思っていた。

「なあ、そんなに好きだったのか?」

「……はい。 正直、好きでした」

 龍樹と私は、今頃もしかしたら結婚の話を進めていたかもしれない。

「そうか。 泣くくらい好きだったのに、なんでフッたんだよ」

 私はナイフとフォークをお皿の上に置くと「……彼に、セフレがいたんです」と話した。

「セフレ?……ってあのセフレか?」

「はい。そのセフレ……です」

 烏丸さんは私の隣に移動してくると、「豊佳、セフレがいる男と付き合ってたのか?」と私に問いかけてくるから、私は「……はい」と答える。

「知らなかったんです、セフレがいるなんて。 しかも、私と付き合う前からその人とは関係があったんです。……信じられないですよね」

「なるほど、クズ男ってことね。……豊佳って、男見る目がないんだな」

 そう言われると、その通りなので何も言い返せないのが悔しい。

「私の二年間……何だったんでしょうね」