【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



「あれっ……」

 私、なんで泣いてるんだろう。どうして泣いてるんだろう。
 悔しいから? 好きだったから? それとも、悲しいから?
 自分でもよくわからない。……どうしちゃったんだろう、私。

「っ……うぅっ」

 今まで溜めていたであろう涙が、知らない間にボロボロと溢れてくる。
 私は泣きたかった訳じゃない。なのになんで、こんなに涙が出るの?

「ふざけんな、このクソ野郎……」

 あんなクズに二年間の自分の人生を預けてきた自分が、イヤになる。
 どうしたらいいのかわからないし、本当に悔しい。遊ばれていたとしか思えない。
 私に結婚しようと言ってくれると信じてたのに、まさかセフレがいるなんて、私の人生何だったんだろう……。

「なあ。アンタ、大丈夫か?」

 しゃがみこんで座り込んでいた私に、誰かが声を掛けてくれる。 
  
「え……?」

 私は涙を拭うと、そっと顔を上げた。

「大丈夫か? 体調悪いのか?」

「……いえ、大丈夫です」

 そう答えたけど、その人は「いや、全然大丈夫じゃなさそうだけど」と私の前にしゃがみこむ。

「本当に、大丈夫ですから」

「そんなに泣き腫らした目で大丈夫だと言われても、大丈夫そうには見えないけどな」

 その人はイケメンと呼んでいいくらいの爽やかな青年だった。
 年は私と同い年くらいに見える。背が高くてすらっとしていて、色白の青年だ。

「……放っといてください」

「そんなに泣いてる人がいるのに、放っておける訳ないだろ」