【完結】失恋したら有名シェフが私を溺愛包囲網で包み込みます。



「え? さっきの店員さん?」

「うん。ちょーイケメンじゃない?」

「……そう?」

 さっきの人よりも龍樹の方が……。って、私ってば何を考えてるんだろう。
 もう龍樹とは、終わったことなのに……。

「豊佳、また龍樹さんのこと考えてるの?」

「え……?」

「やっぱりね。 龍樹さんは最低最悪のクズ野郎なんだから、あんなヤツのことは早く忘れなよ」

 二回目のカフェラテが運ばれてきたタイミングで、私は「ありがとうございます」と微笑んだ。

「では、ごゆっくりどうぞ」

 店員さんが立ち去ると、聖乃が「豊佳、やっぱりあの人イケメンだよ」と私に囁いてくる。

「そう……?」

「豊佳には、ああいう人がいいんじゃない?」
 
「え?」

「豊佳にはやっぱり、紳士的な人がいいと思うよ」

 紳士的な人……。紳士的な人ってなんだろう?
 セフレがいない人? それとも浮気をしない人?

「……豊佳、大丈夫?」

 心配そうに私を見ている聖乃に、私は「うん、大丈夫」とだけ答えた。 

「私、ちょっとお手洗い行ってくるね」

「うん」

 新しい恋人なんて……私に出来るのかな。 私もう二十八歳だし、結婚して幸せになって人生明るくなる予定だったし、それも消えてしまった。
 私はこれから、どうしたらいいんだろう。 もう誰とも幸せになれないのかな。
 
「……はあ」

 両親にも結婚するかもしれないと言ってしまった手前、今さら結婚が白紙になったなんて……言える訳がないよ。