劣情にmistake

「夏川くんは、いつから夏川くんなの?」

「わからない」

「え……? 死神になってからだいたい何年くらいとか、そういう感覚はあるんじゃないの?」


「時間の概念はあるよ、でもわからなくなる。だんだんと消えていくから」

「消えていく?」


そう、と夏川くんが頷いた。

それと同時に足を止めた。
見れば、私の家の前だった。


「俺たちの記憶の保管能力には限界があって、容量がいっぱいになると古い記憶から自動的に消えていく」

「………」

「もちろんシゴトに必要な記憶は、記録として残るけど。今まで何人の死を見送ってきたのかも、どのくらい長く続けてきたのかもわからない」

「そんな、」

「だからお前と出逢ったこともいつか忘れる」


そっと手が解かれたのがわかった。

無意識に、その指先を追いかけようとした。

避けられた。触れさせてくれなかった。

夜風が夏川くんの髪をさらりと揺らして、このまま彼を攫っていくんじゃないかと、思った。