劣情にmistake


「人のかたちを為して存在してるけど、生きてない。俺はそういうモノなの」

「……………、うん、わかった」

「はは、わかっちゃったか」

「心臓がないんだもん」


「そうだよ。心臓“だけ”がない。肺はあるから空気を吸ったり吐いたりできる。肌を切れば血も出てくる。無論、それらもヒトの細胞や器官と同じ役割をもったナニカにすぎないんだけど。人間の真似ごとはだいたいできるよ」


「だいたい……。そんなに、できるんだ」

「そう。だから、例えば……」


不意に距離が近づいて、目の前に影がかかる。

唇が、触れる……


「こういうことはもちろん、もっとえろいことだってできる」


かと、思った。


触れるか触れないかギリギリのラインを攻めて、ゆっくりと離れていく。その様子をぼんやりと追いかける。

彼の昏い瞳が、すうっと妖しく弧を描いた。

ワンテンポ遅れて、首から上がかーっと熱をもった。


今……っ、今……!
奪われるかと思っ……!!