劣情にmistake

奇妙だ。本当に奇妙。

だけどおかしなことに、その奇妙さを不気味に感じることなく、私はただ受け入れている。


繋がれた手に、初めて自分から力を込めてみた。

驚いたのか、夏川くんが振り向く。


「どうしたの、伊藤りりこちゃん」

「なんか、本当に生きてないんだなって……ちゃんと存在してるのに生きてない。ただの物質みたい」

「…………」


相手が息を呑んだ気配で、また我に返る。


「っごめん!! 言葉の選び方間違えた、物質とか言って、その、モノ扱いしたいわけじゃなくて……っ」

「大丈夫、まさにそんな感じだから」


夏川くんはそう言って、私の手を自分の胸元へと誘導した。

夏川くんの、胸元の、左側。

ぴたりと重ねてみても、そこにあるべきものが感じられない。


「……うそだ、そんなわけない」

「服の中まで確かめていいよ」

「っ、あ……」


今度はシャツの裾から滑り込むようにして肌をなぞらせられる。
直に触れてみても、結果は同じ。