数秒後、彼のハナシをすんなり受け止めている自分に気づいて、あっと驚く。
いや、信じたわけじゃないもん。
根っから信じてないわけでもないけど!
うーん、どうだろ、なにこれ。ぐちゃぐちゃでよくわかんなくなってきた。
「俺もね、」
狭い路地を右に曲がったとき、ふと、静かな声が落とされた。
「俺も、自分がおかしいんじゃないかって今でもときどき疑うことがある。実は精神異常者で、死神なんてのは思い込みにすぎなくて。しまいには見えてる世界ぜーんぶ妄想なんじゃないかとか」
声が静かなのは相変わらずだけど、今、微かに震えていたような。
「でもザンネンながら違った。俺はこの世界に確かに存在してるけど、お前みたいに生きてない」
「…………」
「人間の終わりを見届ける使命があって、ときには誰かの命を選んで無理やり奪うこともできる得体のしれないナニカ」
──────だめだ、やっぱりしっくりきてしまう。
あっさり納得できてしまう。
今、間違いなく夏川くんの手に触れている。人間のそれと全く違わない肌の感触もある。
だけどやっぱり……温度がない。
“ない”ってなんだろうと思いつつ、ナイものはナイ。
凍えるようでも、普通に冷たいわけでも、ぬるいわけでも、あったかいわけでも、熱いわけでも、火傷しそうでも……どれでもない。



