私……いつからこんな風になっちゃったのかな。
好きとか楽しいとか、そういう世界から不意に我に返る瞬間がときたまあって、その瞬間がなによりも怖い。
そう、下手したらこの人より怖いかも。
「名前……なんて言うんですか?」
今度は、頭でセリフを準備する前に声が出た。
「名前……俺の?」
「そうです……はい」
「俺は夏川」
「ナツカワ? 死神にも苗字とかあるんだ……」
「そう、苗字というか名前というか、上の連中が付けた呼び名がある。俺は夏の日に川で死んだから夏川」
「しんだ……、しんだんですか?」
「そう、悪趣味な由来でしょ。記憶がないから本当かはわからないけどね、死んだってのも含めて」
しんだ……しんだってことは、かつては、
「俺も人間だったのかも」
思考を読んだようなタイミングでそう言われて、ぞく、としたものが背中を駆け抜ける。
「上の連中のハナシによれば、こっちのセカイにも閻魔大王様みたいな一番偉い存在がいるらしくてね、そいつが、死んだ人間の中から死神の適性があるやつを引き抜くんだって」
「へえ……じゃあ夏川さんは選ばれし者ってことなんですね」
「超ポジティブに捉えればそうかも。てかタメ語でいいよ、あんま歳変わらんし。知らんけど」
そこまで言うと、彼は──夏川くんは再び私の手を引いて歩き始めた。
私はそうされることが当たり前のように足を踏み出した。



