九條くんの15分


私の存在が九条くんに知られる日なんて来ない。
ただひっそり、こっそり、九条くんの後ろを歩く。

そんな毎日を九条くんが卒業するまで───。


なんて、


それすら勝手すぎる私のわがままなんだけど。


「でも、本当にいいの?」

「え?」

「今はまだいないみたいだけど、あれだけのルックスだし、先輩そのうち彼女できるかもよ」


教室の隅っこで、私にだけ聞こえるようにコソコソッと耳打ちする八愛ちゃん。


九条くんに彼女……かぁ。


「絶対に、すっごく綺麗な人だろうねぇ」

「……はぁ。あんたって子は」

「でもさ、好きな人が、自分を好きで、当たり前みたいにそばに居てくれるってすっごい幸せなことだよね」

「そりゃそうでしょ」


ふと考える。

いつもどこか寂しそうな九条くんの隣に、九条くんを笑顔にしてくれる人が寄り添ってくれるなら───。


「早く、九条くんに彼女できるといいな」

「はぁ?……どうしてそうなるわけ?」


八愛ちゃんの眉間に深く深くシワがよる。

だって私は、九条くんが好きだから。

九条くんが幸せで、九条くんの笑顔を拝めるなら……
それってつまり、私の幸せにも繋がるわけで。

ウィン・ウィンの関係ってまさに、こういう時に使うのでは!?

「も〜!茜、自分が幸せになるつもりある?」

「九条くんの幸せイコール私の幸せ」

「……あっきれた」

片手で顔を覆う八愛ちゃんに、ニコリと微笑む。
もちろん八愛ちゃんの幸せも、私の幸せだよ。