ハーレム系ラブコメの負けヒロインに転生したのでハーレム要員にはならずに青春を楽しむことにした

 詩穂のお陰で和らいだ心も、西島さん達の会話を聞いてからはまた沈んでしまった。

 ……確かに『俺バラ』の原田陽太、春宮香恋、財前麗奈は好きになれなかった。だけど……。

 私はふと原田陽太……原田くんが暴力を受けていた時のことを思い出す。

『おい原田、お前本当に自分が苺谷さんと釣り合うとか思ってるのかよ? この身の程知らずが!』

 彼が暴力を振るわれ始めたのは多分私のせいだ。それに、春宮さんと財前さんの件も……私のせいかもしれない。

 その事実が更に重くのしかかる。

 ……どうしたら良いんだろう?

 思わず俯き、ため息が出た。
「あれ? 姫花ちゃん?」
 その時、誰かに話しかけられた。
「碧先輩……」
 顔を上げると、そこには制服姿の碧先輩がいた。
 碧先輩は駅前の予備校に通っており、現在その帰りらしい。
「浮かない顔してるね。顔に思いっきり何かありましたって書いてあるよ」
 碧先輩は穏やかで優しい表情だった。まるで姉か母みたいな感じである。

 碧先輩は……『俺バラ』に登場するヒロインだけれど、ちゃんと目標を持った一人の人間。碧先輩が漫画のキャラでじゃなくて一人の人間でだってことには気付けていたのになあ……。だけど、碧先輩になら今日見たことを話せるかもしれない。

「実は……私のせいでいじめが始まったみたいで……」
 私は碧先輩に今日あったことを話してみた。
 碧先輩はゆっくりと頷きながら私の話を聞いてくれた。
「そっか。姫花ちゃん、大変だったね。だけど、姫花ちゃんのせいじゃないよ。一番悪いのはいじめをする側だよ」
 碧先輩は私の肩に手を置き、そう言ってくれた。
「碧先輩……ありがとうございます。そう言ってもらえて、少し気が楽になりました」
 私の心は少しだけ軽くなった。
「そっか。姫花ちゃんの役に立てたのなら、私も嬉しい。だけど姫花ちゃん、それだけじゃなさそうだよね。いじめを止めたいって思ってるでしょう?」
 碧先輩は真っ直ぐ私を見る。
 その言葉は、私の胸にスッと入っていく。

 私は……この状況を……原田くん、春宮さん、財前さんがいじめられている状況を何とかしたい。

 そして脳裏に浮かぶのは藤堂くんの姿。

 私が動かないと、きっと藤堂くんに釣り合う女の子になれない気がする。

 完全な自己満足ではあるけれど、何かしたいという思いが生まれていた。

「それなら、姫花ちゃんは自分の心に従って動けば良いと思う。ただ、多分一人じゃ難しいよね。私も出来ることがあれば協力するから」
「はい。ありがとうございます。今日碧先輩に会えて本当に良かったです」
 碧先輩のお陰で、私の心には勇気が湧いていた。
 碧先輩と別れた後、私はスマートフォンのメッセージアプリを起動し、藤堂くん、詩穂、一ノ瀬くんのグループに連絡をする。

《みんな、明日話す時間ある? 結構大事な話なんだけど》

 するとすぐに既読が付き、三人からOKと返事があった。
 原田くんの件は男子である藤堂くんと一ノ瀬くんに動いてもらおうと思ったから、彼らにも協力を仰ごう。



◇◇◇◇



 翌日、私は藤堂くん、詩穂、一ノ瀬くんに昨日あったことを話した。
「姫花……だからあんなに元気なかったんだね。西島さんがいじめの主犯とか、原田くんの件はびっくりしたけど、私協力するから」
「苺谷さん、原田の件は俺と健人に任せて」
「男子の暴力って女子にとっては怖いもんな。苺ちゃん、俺も協力するよ」
 三人は事態に驚きつつも、すぐに了承してくれた。
「みんな、ありがとう」
 私は思わず泣きそうになってしまった。
 だけど、泣いている場合ではない。早く何とかしないと。

 早速この日の昼休み、私達は行動を開始した。
 藤堂くんと一ノ瀬くんは原田くんの元に向かい、志穂は春宮さんの元に向かう。そして私は西島さんに絡まれている財前さんの元に向かった。
「財前さん、今大丈夫?」
「え……?」
 私に話しかけられた財前さんは戸惑っていた。
「西島さん、悪いけど財前さんちょっと借りるね」
 私は戸惑う財前さんや西島さん達をよそに、財前さんを一年二組の教室から連れ出して誰もいない空き教室に入る。
「財前さん、西島さんといて大丈夫? 昨日ショッピングモールで西島さん達の会話を聞いたんだけど……」
 私はゆっくりと昨日のことを財前さんに話す。
 すると財前さんはポロポロと泣き始めた。
(わたくし)……香恋さんと喧嘩になった日以来、西島さん達にお金をせびられて……迷惑料だそうですわ。それに、香恋さんをいじめろって命令されて、従わなかったら叩かれたりして……。お父様やお母様には心配かけたくなくて、それで……」
 嗚咽を漏らす財前さん。私はそんな財前さんの背中をさすり、彼女を落ち着かせた。
「財前さん、大変だったね」
 財前さんが落ち着いた頃、私はそう声をかけた。
「はい。正直、こんなことになるとは思いませんでしたわ。陽太くんが苺谷さんを好きだったことも……」
 財前さんは力なく笑う。
「それは……私も驚いてる」
 私は苦笑することしか出来なかった。
「だけど正直、陽太くんのことはもうどうでも良いですわ。それよりも今は、西島さん達を何とかしたいです」
 財前さんは暗い表情でため息をつく。

 ……頃合いかな?

 私は今いる位置から死角になっている場所を見る。
「ということだけど、春宮さん、聞いてた?」
 私が死角に向かって声をかけると、春宮さんと詩穂が出て来た。
「え……香恋さん!? それに桐山さんも……!?」
 財前さんはこの状況に驚いている。
 実はあらかじめ詩穂と相談して春宮さんに財前さんの状況を聞かせようと付け焼き刃だけど計画をしていたのだ。
「麗奈……その、話聞かずに一方的に疑ってごめん」
 春宮さんは気まずそうに財前さんに謝る。
(わたくし)の方こそ、命じられたとはいえ香恋さんに酷いことをしましたわ。申し訳ございません」
 財前さんも春宮さんに謝ることが出来た。
 二人が無事に和解したところで、西島さん達にいじめをやめさせる為にこれからの対策を練る。
 その結果、ボイスレコーダーなどで西島さん達のいじめの証拠を録音し、先生に提出することになった。
 そのボイスレコーダーは財前さんが用意してくれるらしい。おまけに弁護士も呼ぶ予定だそうだ。
 流石はお金持ち。
 そして藤堂くんと一ノ瀬くんの方も上手くまとめることが出来たらしいと連絡があった。

 いじめに関しては何とかなる兆しが見えた。