距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

岩沢設計の社長との食事会は、その週の金曜日の12時からと決まった。

芹奈は社長と一緒にハイヤーで、翔は村尾の運転する車でホテルへと向かう。

日本庭園が眺められる料亭の個室に着くと、芹奈と村尾は社長と翔に挨拶した。

「それでは、我々はここで」
「あ、いやいや。村尾くんも里見くんも同席してくれ」
「は?ですが……」

縁談とあらば、秘書が同席するのははばかられる。

「それがね、せっかくだから私も少し岩沢社長と仕事の話もしたいし、ご令嬢はこういう場に慣れてなくてひどく緊張しているみたいなんだ。だから同性の里見くんがいてくれた方がいいと思って」

そういうことならと、二人も末席に座った。

程なくして岩沢社長と秘書、そして艶やかな振袖姿の令嬢が緊張の面持ちで現れた。

「これはこれは、お待たせいたしました」

村尾も芹奈も岩沢社長と面識があるが、翔は初めてだった。
名刺を交換すると、岩沢社長は翔の姿に目を細める。

「いやー、噂には聞いていたがこうまでハンサムな方だとは。なあ、沙穂(さほ)

話を振られて、令嬢はうつむいたまま小さく頷く。

「ほら、翔さんにご挨拶しなさい」

促されて、令嬢は深々と頭を下げた。

「初めまして、岩沢 沙穂と申します」
「初めまして、神蔵 翔です」

たったそれだけでも、令嬢は身を固くして頬を赤く染める。

(うわ、初々しい。見てる私まで緊張してきちゃう)

芹奈も名刺を渡して挨拶した。

席に着いて乾杯しても、令嬢は顔を伏せて黙ったままだ。

(控えめで、いかにも品の良いお嬢様って感じね。えっと、今年の春に女子大を卒業したばかりの22歳だっけ?)

芹奈は料理を食べながら、そっと様子をうかがう。

翔の真正面に座っているせいか、令嬢はますます身を固くしてあまり箸をつけていない。

社長同士は仕事の話で盛り上がり、翔もそちらに気を取られているようだった。

(もう、副社長ったら。ここは男性がリードして、優しく会話してあげないと)

いつもの欧米流はどうしたのよ?と、芹奈は一人ヤキモキしていた。