距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

(……え?)

ぼんやりと眠りから覚めた芹奈は、ふかふかしたベッドの寝心地にまず違和感を覚える。

(……ええ?)

恐る恐る目を開けると、見慣れない真っ白なシーツが目に飛び込んできた。

これは、つまり……

(えええー!?まさか、3度目ましてー?)

だが隣に翔の姿はない。
ゆっくり起き上がってみると、どうやらベッドルームに一人で寝ていたらしかった。

「えっと、あれからどうしたんだっけ?副社長が眠って良かったなって思いながらパソコンして……。私も撃沈したってことね」

そのあと、恐らく目が覚めた翔が運んでくれたのだろう。

「今は、6時か。とにかくあっちの部屋に行かないと」

芹奈はベッドから下りると、バスルームで洗顔と歯磨きを済ませてからリビングのドアをそっと開けた。
中はまだカーテンが閉め切られていて薄暗い。

ソファに目をやると、完全に横たわって村尾がまだ眠っているのが見えた。

「おはよう。目が覚めた?」

手前に座っていた翔が振り返る。

「はい、おはようございます。ベッドまで運んでくださったんですね。ありがとうございました」
「こちらこそ、先に寝てしまってごめん。おかげでぐっすり眠れたよ。あ、今コーヒー淹れる」
「いえ、私がやります」

コーヒーを二人分淹れると、ダイニングテーブルに向かい合って座った。

「ごめん、結局朝までつき合わせてしまって。君のプライベートの時間を奪ってしまった」
「いいえ。うちにいてもやることなくて、ゴロゴロしてるだけですから」
「デートする時間は取れない?ごめん、これからはもっと君を早く帰宅させるように気をつける」

……は?と芹奈はキョトンとする。

「デート、ですか?」
「ああ。言っただろ?俺は社員に己を犠牲にしてまで会社に尽くして欲しくないし、プライベートの時間を大切にして欲しいんだ。君にも、素敵な恋愛をして欲しいって」
「え?あ、はい」

確かに以前そう言われたことを思い出した。
そして好きな人がいると嘘をついてしまったことも。

「合同ミーディングの為の資料作成、ありがとう。ここから先はもう大丈夫だ。君はいつも通り、社長秘書に戻ってくれて構わない」

えっ!と芹奈は言葉を失う。

「そんな。あの、コンペは?」
「俺と村尾でなんとかするよ。だから里見さん、これからはどうか好きな人との時間を大切にして欲しい。フラれた俺がこんなこと言うと未練がましく聞こえるかもしれないけど、本心なんだ。君の幸せを心から願っている」

そう言って顔を上げると、翔は優しく芹奈に微笑んだ。