距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「こちらが、プロジェクトのショッピングモールのテナントリーシングに関する資料です」

社内合同ミーティングに向けて着々と準備は進み、芹奈は副社長室で翔に資料を差し出して説明をしていた。

「これまでの視察を踏まえて、テナント候補リストを作成しました。全国的にショップを展開しているナショナルチェーンに関しては、既に我が社と何件も取引がある為、概ね賛同を得られると考えます。こちらのアメリカ発祥の雑貨店ですが、これまで我が社との取引はなく、コネクションもほぼありません」

翔はじっと芹奈の言葉に耳を傾けてから、資料に目を通しつつ頷く。

「このアメリカの雑貨店は、ぜひとも誘致したい。今回のショッピングモールの目玉となるよう、既に入っている他のモールよりも広いフロア面積を用意しよう。もちろんカフェも併設してもらいたい。そのつもりで先方に相談する」
「かしこまりました。ファーストコンタクトはどのようにいたしましょうか?」
「そうだな……。まだ用地獲得前だから、具体的な話を進める訳にはいかない。だがある程度現実的に誘致出来るという関係は築いておかなければ、コンペで負けてしまう。さじ加減が難しいし、何よりなるべくトップの相手と話をしておきたい。私が直々にやり取りする」
「承知いたしました。それでは私から先方の秘書の方に、取り次ぎをお願いしてみます」
「ああ、頼む」

そしてその場で早速電話してみることにした。

まずは芹奈が日本法人の代表電話にかけて秘書に繋いでもらい、事情を説明する。

「副社長。先方の社長が詳しくお話を聞きたいとおっしゃっているそうです」
「分かった。このまま繋いでくれ」
「はい」

芹奈は電話口の秘書に伝え、互いに電話を代わってもらうことにした。
受話器を翔に渡すと、芹奈はメモを取る準備をしながら、そばに控える。

「突然のお電話、大変失礼いたします。わたくし、神蔵不動産副社長の神蔵 翔と申します」

簡潔に話をしたあと、翔は相手の言葉を相槌を打ちながら聞いていた。

「……かしこまりました。後ほど秘書にスケジュールを確認させます。どうぞよろしくお願いいたします。はい。では、また後日。失礼いたします」

通話を終えると、翔は顔を上げて芹奈に話の内容を伝える。

「前向きに検討したいとのことだった。だがまずは1度食事の席を設けて、互いに忌憚なく話をしたいと。なるべく早い日程で、先方の秘書とスケジュールを組んでくれるか?場所も任せる」
「承知いたしました」

芹奈は秘書室に戻り、先程話した先方の秘書ともう一度電話でスケジュールを相談した。