距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「おはようございます、副社長」
「おはよう」

月曜日になり、翔は迎えに来てくれた村尾と挨拶を交わして車に乗る。

「来週はいよいよ湾岸エリアプロジェクトの社内合同ミーティングがあります。必要な資料は仕上がり次第すぐに送信しますので、随時チェックをお願いいたします」
「ああ、分かった」

村尾はハンドルを握りながら、チラリとバックミラーを見た。

「副社長、何か心配なことでも?」
「いや、大丈夫だ」

どこか思い詰めた表情にも見えるが、村尾は「そうですか」と答えてその場はやり過ごすことにした。

だがその後、秘書室のデスクに着いて芹奈に「おはよう」と声をかけると、芹奈もどこかいつもと違う雰囲気なのに気づく。

「村尾くん、おはよう。プロジェクトの資料、仕上げたものから確認していってくれる?共有フォルダに入ってるから」
「分かった」

しばらく横目で様子をうかがってみる。

(なんだ?副社長も芹奈も、どこか表情が硬いな)

その時、向かい側のデスクから井口が芹奈に声をかけてきた。

「里見さん。僕もプロジェクトに関する資料、いくつか仕上げました。確認お願い出来ますか?」
「うん、ありがとう。早速見てみるね」

会話する二人の雰囲気はなぜだか柔らかく、笑顔も自然だ。

(なんだ?ますます分からん。逆じゃないのか?これまで井口とはギクシャクして、副社長とは気兼ねなく会話してたのに。今は反対だな)

何かあったのだろうかと、村尾は腕を組んで考える。

(いつからこうなった?金曜日の夜に食事した時は、芹奈も副社長も普段と変わりなく話してた気がするけど。もしや!)

あの後、自分が帰ったあとに何か?と村尾は思い当たった。

(そうだ。俺、気を利かせて二人を残してホテルの部屋を出たんだった。その後に何かあったに違いない。例えば、副社長が芹奈に告白したとか)

そして今朝の二人の雰囲気からすると……

(副社長、芹奈にフラれたのか?しかも井口と芹奈はなんか打ち解けた雰囲気だし。もしや芹奈、副社長の告白を断って井口とつき合うことにしたとか?)

うーん、あり得る、と一人で納得する。
しばらく様子を見ようかとも思ったが、どうにも気になって仕方ない。
それにプロジェクトが本格始動した今、副社長と芹奈の状況を把握しておかなければ。

そう思い、村尾はその日のランチに芹奈を誘った。