距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「ハーイ!セリーナ。会いたかったよ」
「げっ……」

満面の笑みで現れたダグラスに、翔は露骨に嫌そうな顔をした。

「こんばんは、ダグラスさん」

ハグとチークキスをしてくるダグラスに、芹奈は苦笑いしながら応える。

「また会いに来てくれるなんて嬉しいよ、セリーナ」
「いえ、あの、そういう訳では……」

どこに食事に行こうかと迷った翔が選んだのは、いつぞやのダグラスのホテルのフレンチレストラン。
前回はバーラウンジだったが、このホテルのフレンチレストランは景色も良く、料理も美味しいと評判だった。
それにレストランに行くだけならダグラスには会わないからと、翔は芹奈に喜んでもらいたい一心で連れて来た。

だがどうやらダグラスは、エントランスからエレベーターホールに向かうわずかな間に、フロントから目ざとく見つけていたらしい。
三人がレストランに入って席に着くと、スタスタと歩み寄って来たのだった。

「Hi, ムラーオ。How's it going?」
「え、なんで俺には英語?」

怪訝な面持ちで村尾が握手をすると、ダグラスはすぐにまた芹奈に話しかける。

「セリーナ、今夜も美しいね。どう?このあと二人でバーに行かないかい?」

すかさず翔が口を挟む。

「おい、ダグラス。仕事はどうした?」
「平気さ。だって俺、 General Manager だもーん」
「だもーんじゃねーよ、ったく。ほら、食事の邪魔だ。さっさと戻れ、General Manager」
「分かったよ。じゃあね、セリーナ。素敵な夜を」

そう言って芹奈の手を取ると、ダグラスは芹奈の手の甲にチュッと口づけた。

「こら、ダグラス!」

翔が睨みを効かせて、ようやくダグラスは肩をすくめてから立ち去った。