距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

社長に資料を渡すと、今度は15時からの打ち合わせの為の資料を作成する。
昼休みになると食事は軽く済ませ、デスクに突っ伏してお昼寝をした。

目を覚ますと、デスクの上にブラックの缶コーヒーが置いてある。
チラリと井口のデスクを見ると、案の定井口と目が合った。

「ありがとう」
「いいえ」

笑顔で短く会話をし、芹奈はまた資料作りに励んだ。

「芹奈、そろそろ行こうか」

15時5分前になり、村尾が声をかけてきた。
資料を確認すると、二人で副社長室に行く。

あの視察出張から1週間以上経っており、改めて三人で振り返ることになっていた。

「お疲れ様。早速始めようか」

翔は相変わらず無駄な時間を作らない。
流れるように次々と話を進め、芹奈も村尾もスムーズに議案を詰めていった。

「里見さんには今後もショッピングモールの案を中心に進めていって欲しい。村尾はマンションのプロジェクトの方に移ってくれ。既に社内でチームを立ち上げている。今後はそちらに合流してもらいたい」
「かしこまりました」
「という訳で、この三人で行動するのも今日で一旦終わりかな。どうだ?このまま夕食でも一緒に」

翔が口調を変えて気軽に誘い、村尾は「いいですね」と即答する。

「里見さんは?行けそう?」
「あ、はい。その……」

昨日明け方まで仕事をしていて、寝不足だから遠慮したいと言おうとして、芹奈はためらった。

(明け方まで何の仕事を?と聞かれたら、井口くんのミスを話さなくちゃいけなくなる)

それならと別の理由を考えていると、翔が心配そうに聞いてきた。

「里見さん?どうかした?」
「え、いえ」
「じゃあ、行ける?食事」
「あ、はい。少しなら」

思わずそう答えてしまう。

(軽く食べたら先に帰らせてもらおう)

そう思い、芹奈は村尾と一緒に秘書室に戻ると、荷物を持ってエントランスに下りた。