距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「芹奈、今夜飲みに行かないか?」

次の日。
仕事を終えた村尾は、芹奈を行きつけの居酒屋に誘った。

ピールで乾杯すると、早速話を切り出す。

「芹奈、煮詰まってるだろ?井口のこと」

一瞬驚いた表情を見せてから、芹奈は小さく頷いた。

「うん。告白は断ったんだけど、引き下がってくれなくて……」
「ふーん。芹奈のことだから、今は仕事のことしか考えられない。相手が誰でも恋愛は無理、とか答えたんだろ?」
「よく分かるね、村尾くん。それでそのあと、やっぱりあなたのこと嫌いになったってズバッと断ろうかな、ってひとりごと言ってたら聞かれちゃって、そんな嘘では納得出来ないなって」
「へえー。井口って意外と骨太男子だな」

うん……と芹奈はうつむく。

「今までの井口くんとは別人みたいに感じて、私、どう接していいのか。最初に、好きな人がいるからって断れば良かったなって、後悔してる」
「うーん、そうだな。しかもそのひとりごとを聞かれたのなら、今更そう言ってももう遅い」
「そうなの。どうして井口くん、私なんかのこと……。他にもっとお似合いの子がいるのに。奈緒ちゃんとか」
「確かにな。あ!いや、ごめん」

怒ってくるかと思いきや、芹奈は村尾の失言にも気づかず、しょんぼりとうつむいたままだ。

(こりゃ、重症だな。どうしたもんか……。一番いいのは、芹奈が副社長を好きになること。そうすれば副社長の片思いも実るし、井口もさすがに諦めつくだろう。けど肝心の芹奈が、副社長のことをどう思ってるのか……)

そう思い、村尾はさり気なく聞いてみる。

「なあ、芹奈。今、好きな人いないんだっけ?それって、気になる人もいないってこと?」
「うん、いない。最後に恋愛したのなんて、大学生の時だよ」
「なるほど。それならさ、ちょっと恋愛モードにスイッチ切り替えてみたら?」

え?と芹奈は顔を上げる。

「どういうこと?」
「だからさ、毎日仕事のことばかりじゃなくて、いい人いないかな?って感じで周りを見てみるんだ。いつもよりちょっとオシャレして、仕事帰りに誰かと食事に行ってみたり」
「ええ!?仕事中にキョロキョロ人探しするの?」
「いや、キョロキョロっていうか……。うん、まあ、そうかな。誰かを飲みに誘うとか」
「そんなの、仕事より難しいよ」

芹奈は困ったように、更に肩を落とした。

「私、井口くんのことがあって、ますます恋愛するのが怖くなっちゃったの。気持ちが乱されて、落ち着かない。井口くんと顔も合わせづらいし。元に戻れたらいいのに」

明らかに落ち込んでいる芹奈に、村尾は何も言えなくなる。

(これ以上けしかけたら逆効果だな。仕方ない、もう少し様子をみるか)

そう思い、今夜は楽しくパーッと飲もう!と明るく乾杯し直した。