「なるほど。アウトレットって、今はこんなにあちこちに出来たんだな」

地図を見せながら説明すると、翔は熱心に目を落とす。

「はい。埼玉と八王子と静岡は運営会社が違うので、3ヶ所とも押さえたい所です。あとは栃木や長野にもあるのですが、さすがに遠くて現実的ではないでしょうか?」
「そうだな、けど行ってみたい。軽井沢に神蔵グループのホテルがあるから、もし二人さえよければ泊まりがけでどうだ?」

ええ!?と思わぬ話の流れに、芹奈も村尾も驚く。

「日帰りで何日もかけて回るより、泊まりがけの方が効率よく回れるかと思ってな。もちろん、俺一人で行っても構わない」
「いえ、私も一緒にまいります」

村尾がそう言うと、芹奈も「私もご一緒します」と頷いた。

「本当に大丈夫か?もし無理なら遠慮なく伝えてくれ」
「いえ、大丈夫です。それに視察は早めに区切りをつけて、プロジェクトの全体像も詰めていかなければ」
「そうだな。よし、じゃあ三人で行こう。スケジュール調整は任せる」
「かしこまりました」

村尾と芹奈がその場でスケジュールを確認し、翌週の水曜日から1泊と決まった。

「では午後にでも、どのルートで回るか決めておきますね。あ、芹奈は午後時間あるか?」
「えっと、15時からの社長の会議に同席するから、その前なら大丈夫」
「了解。じゃ、昼飯食ってからな。おっと!もう12時過ぎてる」

時計に目をやった村尾の呟きに、芹奈は、ええ!?と驚く。

「大変!早く戻らなくちゃ。お店が混んじゃう」
「ん?誰かとランチの約束してるのか?」
「うん、菜緒ちゃんと井口くん。それでは副社長、失礼いたします。村尾くんも、またあとでね」

いそいそと芹奈が出て行き、パタンとドアが閉まった次の瞬間……。

「村尾。井口くんとは、あの井口のことか?」

地を這うような翔の低い声がして、村尾はヒッと首をすくめた。

「ど、どうでしょう?彼女が誰と約束したのか、私はよく存じませんが」
「あの井口以外に、どの井口がいると言うのだ?」
「さ、左様でございますね。はい、あの井口かと思われます」
「おのれ、あの井口め。俺が彼女に惚れていると知っての狼藉か?」
「副社長!お控えください。ここは会社でございますゆえ」
「ならば空き地にでも呼び出して、とくと知らしめてやる。俺の里見さんに手を出すな!とな」

空き地ってどこだよ?と村尾は脱力する。

(これ、いつまで続くんだ?勘弁してくれ)

部外者の自分を巻き込むのはやめて欲しい。
それに、バリバリ仕事をこなす憧れの存在だった翔のキャラが崩壊していくのもガッカリだった。

(芹奈ー、頼むから身を固めてくれ。いや、井口とつき合い出したら、副社長は更に暴れるかも?)

考えただけで恐ろしい。
その時、翔が立ち上がった。

「村尾。里見さんがどこにランチに行ったか分かるか?」
「え?はい。おそらく行きつけのイタリアンかと……。って、え?まさか!」

すると翔はジャケットに腕を通してから、ニヤリと村尾に笑いかけた。

「村尾、ランチをご馳走しよう。そうだな、気分はイタリアンかな。いい店があったら案内してくれ」
「は、はい」

村尾は力尽きたようにガックリとうなだれた。