「以上が本日のご予定です」

いつもより少し遅く出社した社長をエントランスで出迎え、社長室でコーヒーを淹れると、芹奈はスケジュールを読み上げた。

「分かった、ありがとう。あ、里見くん。視察の方はどうだい?」
「はい、昨日2回目の視察としてお台場と豊洲エリアに行ってまいりました。マンション建設における注意点や環境整備、あとはショッピングモールを魅力あるものにするなどのアイデアが得られ、また次回の視察に繋げたいと考えています」
「そうか。翔が用地の取得を考えているあのエリアはね、実はこの業界の全企業が狙っているといっても過言ではないんだ。行政が売りに出すことが珍しい立地で、しかも規模も大きい。私はなんとしても翔にこのプロジェクトを成功させてもらいたい。どうか里見くんもサポートしてやって欲しい」

普段は温和な社長が真剣に話す様子に、芹奈は圧倒される。
並々ならぬ期待とプレッシャーを、息子である翔にかけているのだろう。

「かしこまりました。わたくしも全力でサポートに努めます」
「うん、頼むよ。私の秘書は、引き続き井口くんに頼んでくれて構わない。彼もしっかり仕事をこなしてくれるしね」
「はい、ありがとうございます」

それでは失礼いたします、とお辞儀をして部屋を出ると、芹奈は気持ちを引き締めた。
秘書室に戻ると、早速村尾と視察のスケジュールを相談する。

「副社長は、次回は郊外のショッピングモールやアウトレットを視察したいとおっしゃっていた」
「アウトレットか。遠いし広いから、結構時間かかりそうだね」
「そうだな。取り敢えず関東近郊で、八王子、千葉、埼玉、神奈川、静岡辺りかな」
「そうね。手掛けた企業の系列もあるから、なるべく別系列のところをいくつかピックアップしようか」
「ああ。副社長に相談に行く?今なら時間取れると思うんだ」

そして二人で副社長室に向った。