「ただ今戻りました……」
そうっと様子をうかがいながら芹奈が秘書室に入ると、よりによって、いたのは井口だけだった。
「里見さん!お疲れ様です」
「お、お疲れ様、井口くん。他の人は?」
「少し前にみんな帰りましたよ。もう7時過ぎてますしね」
「そっか。ごめんね、遅くなって」
「いいえ!戻って来てくれて、すごく嬉しいです」
にこにこと笑顔を向けられて、芹奈は気まずい笑みを浮かべる。
「えっと、秘書業務はどうだった?社長の様子は?」
「特に変わったことはありません。今日一日の仕事の流れは日報に入力しておきました」
「ありがとう。すぐに確認するね」
「いえ、明日でも問題ないです。それより里見さん、お話してもいいですか?」
芹奈はゴクリと生唾を飲む。
やはり業務の申し送りではなさそうだった。
「はい、なんでしょう?」
「僕、少し前に里見さんに告白しました。覚えてますか?」
「うっ、ええ、記憶にございます」
「では、お返事を聞かせてもらえないでしょうか?」
「お返事、ですか?」
「はい。僕とつき合ってください」
正面からストレートに言われて、芹奈は言葉に詰まる。
「あの、井口くんって、見かけによらずズバッと潔いんだね」
「里見さんに対してだけですよ」
「そうなの?」
「そうです。それで、お返事は?」
「えっと、その……」
仕事の時とは立場が逆で、芹奈はいつもは大人しい井口を前に、どうしたものかと困り果てる。
「あの、井口くん。私は普段から仕事のことばかりで、恋愛については全く頭になかったの。だから誰かとおつき合いするなんてことも、考えたことなくて……。たとえ相手が誰であっても、恋人になるというのが現実的には考えられません。ごめんなさい」
素直な気持ちを伝えて頭を下げると、井口はしばし考え込んだあと口を開いた。
「それって、僕のことを嫌いだって訳ではないのですよね?」
「うん。井口くんはとても良い仕事仲間だと思ってます」
「他のどの男性とも同じ立場な訳ですよね?僕は誰かに負けてフラれたんじゃないですよね?」
「そう。井口くんだからってことではなくて、誰に告白されても断ると思う」
「それなら良かった」
は、良かった?と芹奈は思わず顔を上げる。
「これから里見さんが少しずつ恋愛について考え始めた時、既に告白してる僕は一歩リードして意識してもらえるかもしれません。だから僕はこれからも、里見さんにアピールし続けようと思います」
そう言って井口は、にこっと笑う。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「え、は、はい?」
「一緒に帰りましょう」
「どうして?」
「里見さんと一緒にいたいから。それと、僕のことを意識してもらえるようにアピールしたいので」
カバンを手ににっこりと振り返る井口に、芹奈はポカンとする。
「里見さん?一人で歩けないなら手を繋ぎましょうか?」
「は?いえいえ、歩けます。歩けますとも」
ぎくしゃくと歩き始めた芹奈にクスッと笑って、井口は芹奈と肩を並べた。
そうっと様子をうかがいながら芹奈が秘書室に入ると、よりによって、いたのは井口だけだった。
「里見さん!お疲れ様です」
「お、お疲れ様、井口くん。他の人は?」
「少し前にみんな帰りましたよ。もう7時過ぎてますしね」
「そっか。ごめんね、遅くなって」
「いいえ!戻って来てくれて、すごく嬉しいです」
にこにこと笑顔を向けられて、芹奈は気まずい笑みを浮かべる。
「えっと、秘書業務はどうだった?社長の様子は?」
「特に変わったことはありません。今日一日の仕事の流れは日報に入力しておきました」
「ありがとう。すぐに確認するね」
「いえ、明日でも問題ないです。それより里見さん、お話してもいいですか?」
芹奈はゴクリと生唾を飲む。
やはり業務の申し送りではなさそうだった。
「はい、なんでしょう?」
「僕、少し前に里見さんに告白しました。覚えてますか?」
「うっ、ええ、記憶にございます」
「では、お返事を聞かせてもらえないでしょうか?」
「お返事、ですか?」
「はい。僕とつき合ってください」
正面からストレートに言われて、芹奈は言葉に詰まる。
「あの、井口くんって、見かけによらずズバッと潔いんだね」
「里見さんに対してだけですよ」
「そうなの?」
「そうです。それで、お返事は?」
「えっと、その……」
仕事の時とは立場が逆で、芹奈はいつもは大人しい井口を前に、どうしたものかと困り果てる。
「あの、井口くん。私は普段から仕事のことばかりで、恋愛については全く頭になかったの。だから誰かとおつき合いするなんてことも、考えたことなくて……。たとえ相手が誰であっても、恋人になるというのが現実的には考えられません。ごめんなさい」
素直な気持ちを伝えて頭を下げると、井口はしばし考え込んだあと口を開いた。
「それって、僕のことを嫌いだって訳ではないのですよね?」
「うん。井口くんはとても良い仕事仲間だと思ってます」
「他のどの男性とも同じ立場な訳ですよね?僕は誰かに負けてフラれたんじゃないですよね?」
「そう。井口くんだからってことではなくて、誰に告白されても断ると思う」
「それなら良かった」
は、良かった?と芹奈は思わず顔を上げる。
「これから里見さんが少しずつ恋愛について考え始めた時、既に告白してる僕は一歩リードして意識してもらえるかもしれません。だから僕はこれからも、里見さんにアピールし続けようと思います」
そう言って井口は、にこっと笑う。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」
「え、は、はい?」
「一緒に帰りましょう」
「どうして?」
「里見さんと一緒にいたいから。それと、僕のことを意識してもらえるようにアピールしたいので」
カバンを手ににっこりと振り返る井口に、芹奈はポカンとする。
「里見さん?一人で歩けないなら手を繋ぎましょうか?」
「は?いえいえ、歩けます。歩けますとも」
ぎくしゃくと歩き始めた芹奈にクスッと笑って、井口は芹奈と肩を並べた。



