「ああ、もう、どうしてこうなるの?私、副社長と知り合ってまだ1か月も経ってないのに。仕事の場ではいつも真面目にがんばってきたのに。なんでこうも失態続きなの?」

シャワーで髪を洗いながら、芹奈はブツブツと呟く。

「いや、でも私だけが悪い訳じゃないわよね?そもそもさ、いくら海外生活が長いからって何をするにも近いのよ、副社長は。ソーシャルディスタンスとか、パーソナルスペースとか、どうなってんのかしら?夕べのダグラスさんといい、やっぱり苦手だわ、外国の風潮」

キュッとシャワーを止めると、タオルを拝借して身体を拭き、もう一度ワンピースに腕を通す。

(今日もまた早めに出社してスーツに着替えよう)

ドライヤーで髪を乾かし、メイクを整えてからバスルームを出る。

廊下の先に見えるドアを開けると、朝陽が眩しく射し込む明るいリビングが広がっていた。

「わあ、素敵なお部屋ですね」

思わず頬を緩めて感激してしまう。

「そう?毎日住んでるとあんまり実感ないけど」

カウンターキッチンでコーヒーを淹れながら翔が答えた。

「とってもいいお部屋ですよ。広くて明るくて窓も大きいし。それにモデルルームみたいに綺麗にされてるんですね」
「まあ、寝に帰るだけだからね。はい、コーヒーとトースト。ごめん、大したものがなくて」
「いえ、充分です。ありがとうございます」

ダイニングテーブルに向かい合って座り、二人で朝食を食べると、芹奈は食器をキッチンに下げて洗い物をした。

「いいよ、そのまま置いておいてくれれば」
「これくらいやらせてください」

洗い終わると綺麗に拭いて食器棚にしまう。

「それでは副社長。私はお先に失礼いたします」
「もう行くの?村尾が8時に車で迎えに来てくれるけど?」
「いえ、早めに出社して着替えたいので。ご迷惑をおかけしました。それでは」

お辞儀をするとバッグを持ち、まだ何か言いたそうな翔に背を向けて玄関を出た。