料理を食べ終えると、デザートはバーカウンターでいかがですか?とスタッフが芹奈に尋ねた。

どうやら芹奈が、熱心にピアノを聴いていたのに気づいたらしい。

バーカウンターはピアノのすぐ横にあり、もっと近くで演奏が楽しめるということで、三人はカウンターに移動して並んで座った。

ソルベとショコラを味わいながら、うっとりとピアノの音色に聴き入る芹奈の横顔を、翔もダグラスも微笑んで見守る。

するとジャケットの内ポケットで、翔のスマートフォンがバイブで震えた。

取り出して表示を見ると、海外支社からの電話だった。

翔は、失礼、と二人に断ってから店の外に出る。

思いのほか話し込んでしまい、急いで店内に戻ると、芹奈の様子がおかしなことに気づいた。

「あ、副社長。お帰りなさい」

そう言って翔に笑いかけるが、目はトロンとして頬は赤く染まっている。

(もしかして、酔ってる?)

翔は、芹奈の前にあるカクテルグラスに目をやった。

(この色、まさかホワイトレディ!?)

お酒は強くないと話していた芹奈が、この度数のカクテルを飲んだら……

「おい、ダグラス!お前が飲ませたのか?」
「ん?美しい彼女にぴったりのカクテルを勧めただけさ。何をそんなに怒ってるんだ?」
「彼女はお酒に弱いんだぞ!」

翔はスタッフにミネラルウォーターを頼み、「大丈夫か?」と芹奈に声をかけてゆっくりと飲ませた。

「うちまで送る。立てるか?」
「はい」

腕を取って立たせると、芹奈はふらっとよろめき、慌てて翔は芹奈の身体を支えた。

「ダグラス、今夜はお開きだ。またな」

ダグラスは、仕方ないとばかりにため息をつく。

「OK. Good night ! セリーナ」

翔は足元のおぼつかない芹奈をグッと抱き寄せて店を出た。

「大丈夫か?」

店の前でタクシーを拾い、芹奈を気遣いながら後部シートに二人で乗り込んだ。

「えっと、住所言える?」
「はい。東京都中央区……」

随分会社に近い所に住んでるんだなと思いつつ、教えてもらえたことにホッとして、翔はタクシーの運転手に住所を伝えた。

走り出した車に揺られているうちに、芹奈は眠ってしまったらしい。

クタッとシートにもたれている芹奈の頭を、翔はそっと抱き寄せて自分の肩にもたれさせた。

「着きましたよ」

ハザードをつけて振り返った運転手に「あ、はい」と言って顔を上げた翔は、え?と固まる。

(ここって、会社?)

どうやら芹奈は自宅ではなく会社の住所を告げたらしく、本社に異動して日が浅い翔は住所をうろ覚えで気づかなかった。

「おい、自宅の住所は?どこに住んでる?」

芹奈の肩を揺さぶって尋ねるが、芹奈はもはやすっかり熟睡していて目を覚ます気配すらない。

バッグの中を探って免許証か保険証を見てもいいものか、と思案していると、運転手が困ったように声をかけてきた。

「お客さーん、降りるの?降りないの?」
「あ、すみません。じゃあもう少し先までお願いします。ここを直進して……」

結局翔は、自宅マンションに向かってもらった。