「最近出来たこのホテル、シンガポールの有名な高級ホテルですよね?日本に初めて進出したって、少し前に話題になってました。外観のデザインも素敵ですね。このエリア一帯の群造形というか、雰囲気を壊さず、かつ存在感ある造形美で」

オリエンタルな雰囲気ながらも主張し過ぎないホテルの外観を見上げて、芹奈がうっとりと呟く。

「そうだな。既存の街並みに違和感なく溶け込んで、自然にも調和する。近隣住民も、これなら反対しなかっただろう。中に入ってみるか」
「はい」

三人でエントランスに足を踏み入れると、吹き抜けのロビーの中央にある、大きな南国の木が目に飛び込んできた。

鮮やかな花もあちこちに飾られている。

「わあ、なんだか都会の喧騒を忘れさせてくれますね。華やかだし、リゾート感もあって」
「そうだな。シンガポールのホテルのコンセプトも受け継いでるみたいだ。あ、そう言えば……」

そう言って翔はしばし考え込む。

「どうかなさいましたか?副社長」
「ああ。シンガポールに支社を立ち上げた時、現地のこのホテルの支配人とも一緒に仕事をしたんだ。彼、その時、近々日本に異動になるって話しててさ。もしかして今いるかも?」

試しに聞いてみる、と言ってフロントデスクに向かった翔がスタッフと手短に話すと、奥からスーツ姿の外国人スタッフがにこやかに現れた。

「ワオ!ハイ、ショウ」
「ハイ!ダグラス」

二人はハグをしながら、破顔して再会を喜ぶ。

感激の面持ちでしばらく話したあと、翔は芹奈と村尾をダグラスに紹介した。

ダグラスは笑顔で芹奈に握手を求める。

「ハイ!セリーナ。アイム ダグラス」

初めましてと芹奈と握手をすると、ダグラスは次に村尾に手を差し出した。

「ハイ!ムラーオ」
「ム、ムラーオ?なんか、ムラムラ男のムラ男みたいだな」

握手に応じながら呟く村尾に、芹奈は思わず吹き出しそうになる。

「悪い。村尾の下の名前、忘れちゃってさ」

そう言いつつ翔も笑いを堪えていた。

もう一度翔と話をすると、ダグラスは、バーイ!と笑顔で去っていく。

「突然のことでお相手は出来ないけど、ぜひ食事していってくれって、ダグラスが」
「えっ、よろしいのでしょうか?」
「うん、大丈夫だ。ダグラスとはシンガポールにいる時よく一緒に飲んでたから、気心は知れてる。今日はお言葉に甘えよう。後日俺から改めて、ダグラスを食事に招待するよ」

そして三人は、最上階のバーラウンジに向かった。