月曜日になり、芹奈は朝の秘書業務を終えると、社長に挨拶してからエントランスに下りた。

副社長と合流し、村尾が運転する車に乗り込んで早速調査に行く。

「えっと、まずは立地が似ている横浜みなとみらいエリアから回ろうか」

みなとみらいへは高速道路を使い、30分程で到着した。

「うわー、海が綺麗ですね」

気持ち良く晴れ渡った青空と目の前に広がる海は開放感に溢れ、芹奈は大きく深呼吸する。

「公園も広くて気持ちいいな。あそこにいくつか見えるのがマンションで、あっちは病院。隣にはショッピングモールと美術館、観覧車がある遊園地と、ホテルやコンサートホール」

手元の地図を見ながら、翔が指差す。

「すごいですね。このエリアにそんなにたくさん?」
「改めて見ると確かにすごいな。見て回るのは一日がかりになりそうだ。早速行こうか」
「はい」

頷いて、芹奈と村尾は翔のあとをついて行く。

まずはマンションのあるエリアからスタートして、ショッピングモールへと向かった。

「道路も区画整理されていて、歩きやすいですね。朝のジョギングにも良さそう」
「おっ、するんだ?ジョギング」
「いえ、私はしませんけど」

芹奈が真顔で答えると、翔はガクッと肩を落とす。

「ベビーカーでのお散歩にもいいですね。わあ、あっという間に美術館!なんて素敵なの」
「好きなのか?絵画」
「いえ、建物の雰囲気が好きなだけです」

またもやコケッとなってから、翔は眉根を寄せて村尾に尋ねた。

「日本の女性って、みんなこんな感じなのか?」
「こんな感じ、とは?」
「なんかこう、子どもみたいにいちいち感激するというか」
「うーん、どうでしょう?私も女性に関して多くは語れませんが、彼女は一緒にいて楽しい人だと思います。あくまで私の感じ方ですが……。外国の女性とは違いますか?」
「うん。俺の知ってる欧米の女性は、もっとクールで淡々としてるかな。明るく盛り上がることはあっても、あんなふうに目をキラキラさせたりはしない」

そして二人で芹奈に目をやる。

「里見は、プライベートも顧みずに、ずっと仕事一筋でここまで来ました。ようやく最近肩の力を抜いて、周りに目が行くようになったところだと思います。だから余計に感激するのかもしれないですね。こんなふうに街に出掛けるのも、久しぶりでしょうから」

芹奈を見つめたまま穏やかに話す村尾を、翔はまじまじと見つめた。

「ひょっとして二人、つき合ってるのか?」
「いえ、違います。同期なので仲がいいだけです。お互い仕事を覚えるのに必死で、これまでずっと恋愛はご無沙汰でしたね」
「そうなのか。俺からすると、その雰囲気ならつき合ってるようにしか見えないけどな。随分奥手というか、真面目なんだな」
「え、副社長。一体これまで、どんな恋愛遍歴を?」

村尾が思わず尋ねると、翔は、うーん……と腕を組む。

「日本にいた時は、俺も確かに今より純情だったよ。けど海外に行ってからは違うかな。その場の雰囲気というか、フィーリングでどうにでもなる。で、関係を持ってから、じゃあ正式につき合おうか、みたいな。相性とかもあるしな」

ふ、副社長!?と村尾は仰け反り、誰かに聞かれなかったかとキョロキョロする。

「あの、ちょっと、色々申し上げたいのですが、とにかくここは日本ですので!そのような武勇伝はTPOを考慮してご披露ください。それと里見には刺激の強いお話なので、内密に」
「分かってるよ。それに俺、片っ端から手をつけてた訳じゃないぞ?周りはそんな感じだったけど、俺自身は自制してた。10年間で関係を持ったのは二人だけだ。な?奥手だろ?」
「いやいや、あのあの。そんな赤裸々にこんな真っ昼間の路上でお話される内容では……」

その時、周囲の街並みや美術館の外観を写真に収めていた芹奈が、二人の元に戻って来た。

「この辺りはだいたい撮れました。移動しますか?」
「そうだな」

歩き出した翔に、この話題はもう終わりですよ、とばかりに村尾は真剣な表情で訴えていた。