翌日。
社長と副社長の打ち合わせに、芹奈は村尾と同席していた。

「これが現在、用地の取得を考えている湾岸エリアです」

翔の言葉に合わせて、村尾が資料を社長に差し出す。

「様々な調査を行ったところ、オフィスビルではなく、住宅マンションが向いているのではないかと考えます。海を見渡せる立地を活かし、豊かな自然に囲まれた住まいをテーマに、環境にも配慮した機能を備えます。また利便性も考え、スーパーマーケットやクリニック、ショッピングモールも含めた大型複合施設を建設してはどうかと」

黙って聞いていた社長は、資料をじっくり読んでから顔を上げた。

「このエリアは、他にも多くのデベロッパーが狙っている。単にお金を積めば手に入る訳ではないぞ?」
「承知しています。近隣住民や行政とも関係を築きながら、街全体の魅力向上に繋がることを地権者にプレゼンし、強い信頼関係を構築していく考えです」

うむ、と社長は難しい顔で頷く。

「方針としては概ね賛成だ。だがお前は海外から帰国したばかりで、現在の日本の事情には詳しくない。そこが懸念事項だ。どんな間取りでどんな共用施設の住まいがいいのか?ショッピングモールでは、どんなお店が人気なのか?環境に優しい設計とは、具体的に今の日本の技術でどんなことが出来るのか?お前はそれを肌で感じる必要がある」
「おっしゃる通りです。それをこれからじっくり調査し、人々のニーズに合わせたプランを練っていく所存です。まずはあちこちの大型ショッピングモールと、そこに隣接するマンションを見て回ろうかと。村尾と一緒に現地に足を運びます」
「そうだな、まずはそこからだ」

そして社長は、ふいに後ろに控えていた芹奈を振り返った。

「里見くんも一緒に行ってやってくれるかい?」
「は?わたくしも、でしょうか?」
「ああ。女性目線での意見が欲しいんだ。住みやすさやショッピングに関しては、やはり男性より女性の考えが重視されるからね」
「かしこまりました。お力になれるよう、精一杯努めます。わたくしが不在中の社長の秘書業務は、別の者に担当させてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。人選は任せる」
「承知いたしました」

そうして翌週からしばらくの間、芹奈は翔や村尾と行動を共にすることになった。