「芹奈、スクリーンの映り具合見てくれ」
「うん、分かった」
会議の前に、秘書達が会議室に集まり準備を進める。
芹奈は村尾に言われて、一番後ろの席から前方のスクリーンをチェックした。
「ちょっと暗くて文字が見えにくいかも?村尾くん、もう少し明るく出来る?」
「了解。これでどう?」
「うん、バッチリ!ありがとう」
井口が資料をテーブルに並べ、他の女性秘書が人数分のコーヒーを淹れると、芹奈は社長室に向かった。
「失礼いたします。社長、そろそろ会議室に移動をお願いいたします」
「ああ、分かった」
先を歩いてエレベーターを呼び、会議室のドアを開けて中へ促すと、その場にいる全員が一斉に立ち上がる。
「おはようございます」
「おはよう、ご苦労様。早速始めようか」
「はい」
すると副社長の翔が前に立ち、ゆったりと一礼してから口を開いた。
「それではこれより、我が社の海外支社における現状と課題点、今後の展望についてご報告いたします。まずは東南アジアから。お手元の資料と合わせて、前方のスクリーンをご覧ください」
翔はスラスラと流れるように会議を進行していく。
スムーズな話の運び方に、誰もが引き込まれて集中していた。
「私からの報告は以上です。ご意見や疑問点等ありましたら、お気軽にメールでお知らせください。今回はご報告がメインでしたが、次回の会議ではそれらを踏まえて、活発な意見交換の場となるよう願っております。ご清聴ありがとうございました」
深々と頭を下げる翔に拍手が起こる。
「いやー、ストレスフリーな会議でしたね」
「まったく。1時間があっという間で、ボーッとする暇もありませんでしたよ」
役員達がそう言いながら部屋をあとにし、芹奈達は片づけに追われた。
社長が他の役員とまだ席で話をしているのを横目で捉えつつ、芹奈はテーブルの上を片づけていく。
「それにしても鮮やかでしたね、副社長。あの分厚い資料を見た時は絶対に1時間では無理だと思ったのに、蓋を開けてみればビッタリ1時間!もうお見事としか言いようがないです」
井口の言葉に、他の秘書達も頷いた。
「そうよね。それになんていうのかしら、プレゼンのセンスがいいわよね。カリスマ性があって話し方もスマート。政治家とか向いてそう」
「確かに!あと、俳優にも向いてそう」
「は?どういう意味よ、菜緒」
「だって、ただしゃべってるだけで見惚れちゃうんですもん」
まだ24歳の女性秘書の菜緒は、うっとりと両手で頬を押さえる。
「なんか、自信に満ち溢れてて余裕のある雰囲気とか、キリッとした大人の男って感じの色気がいいなー」
「まさか菜緒、狙ってる?」
30代の先輩達に囲まれ、菜緒は照れたように笑った。
「えー、狙えますかね?だったらいいなあ。少しでもお近づきになりたいです」
「そう言えば、副社長っておつき合いしてる女性いるのかしら。ねえ、村尾くん」
先輩に呼ばれて、パソコンの電源を落としていた村尾が顔を上げる。
「はい、なんですか?」
「副社長ってさ、彼女いるの?」
「ええー!?そんなの俺も知りませんよ」
「でもほら、村尾くん毎日車で副社長の送り迎えしてるでしょ?彼女がマンションで待ってたり、デートだからレストランに向かってくれ、とかないの?」
「ないですよ。いつも自宅マンションの往復です。あ、今日は夕べのパーティー会場だったホテルにお迎えに行きましたけど、お一人でしたよ」
ふーん、そうなんだ、と先輩達が納得する中、芹奈は一人ヒヤヒヤしていた。
(良かった、一人でさっさとホテルを出て。副社長は、何もなかったんだから普通に一緒に車で、なんておっしゃってたけど。やっぱりこんなに注目されてるのよね、副社長って。これからもなるべく接触しないようにしようっと)
そう思い、芹奈は話の輪から外れる。
そろそろ社長に声をかけて部屋に戻ろうと歩き出した時、「里見さん」と呼ばれて芹奈は振り返った。
「はい」
って、え!副社長!?
不自然な体勢で芹奈は固まる。
「これ、洗面台に忘れてたよ」
そう言って翔は芹奈の右手を掴み、何かを握らせるとギュッと両手で包み込んだ。
「落とさないようにね。じゃあ」
背を向けて去っていく翔を呆然と見送ったのは芹奈だけではない。
「ど、どういうことー!?」
その場の秘書全員が芹奈に詰め寄る。
「芹奈!手を開いてみて。ほら、パーにして!」
先輩に言われて、芹奈はゆっくりと右手を開いた。
そこにあったのは夕べのパーティーで着けていた、ひと粒ダイヤのネックレス。
(あっこれ。シャワーを浴びる前に外したんだった。良かったー。両親からの成人のお祝いにもらった大事なネックレスだもん。失くしたら大変だったな)
ホッとする芹奈と相反して、先輩達はざわつく。
「ど、どうしたの?これ。まさか副社長から?洗面台に忘れたって、誰のうちの?」
「いえ、あの。これは両親からもらったものです。洗面台っていうのは、夕べのパーティー会場のことで……」
「ああ、なるほど。って、変でしょ?なんでパーティー会場に洗面台があるのよ」
「それがなんかその辺に、手を洗えるちょっとした洗面台があったんですよねー。あはは!あっ、そろそろ社長をご案内しないと。それでは失礼します」
芹奈は一気にまくし立てて強引に話を締めると、急いで社長の元に駆け寄った。
「うん、分かった」
会議の前に、秘書達が会議室に集まり準備を進める。
芹奈は村尾に言われて、一番後ろの席から前方のスクリーンをチェックした。
「ちょっと暗くて文字が見えにくいかも?村尾くん、もう少し明るく出来る?」
「了解。これでどう?」
「うん、バッチリ!ありがとう」
井口が資料をテーブルに並べ、他の女性秘書が人数分のコーヒーを淹れると、芹奈は社長室に向かった。
「失礼いたします。社長、そろそろ会議室に移動をお願いいたします」
「ああ、分かった」
先を歩いてエレベーターを呼び、会議室のドアを開けて中へ促すと、その場にいる全員が一斉に立ち上がる。
「おはようございます」
「おはよう、ご苦労様。早速始めようか」
「はい」
すると副社長の翔が前に立ち、ゆったりと一礼してから口を開いた。
「それではこれより、我が社の海外支社における現状と課題点、今後の展望についてご報告いたします。まずは東南アジアから。お手元の資料と合わせて、前方のスクリーンをご覧ください」
翔はスラスラと流れるように会議を進行していく。
スムーズな話の運び方に、誰もが引き込まれて集中していた。
「私からの報告は以上です。ご意見や疑問点等ありましたら、お気軽にメールでお知らせください。今回はご報告がメインでしたが、次回の会議ではそれらを踏まえて、活発な意見交換の場となるよう願っております。ご清聴ありがとうございました」
深々と頭を下げる翔に拍手が起こる。
「いやー、ストレスフリーな会議でしたね」
「まったく。1時間があっという間で、ボーッとする暇もありませんでしたよ」
役員達がそう言いながら部屋をあとにし、芹奈達は片づけに追われた。
社長が他の役員とまだ席で話をしているのを横目で捉えつつ、芹奈はテーブルの上を片づけていく。
「それにしても鮮やかでしたね、副社長。あの分厚い資料を見た時は絶対に1時間では無理だと思ったのに、蓋を開けてみればビッタリ1時間!もうお見事としか言いようがないです」
井口の言葉に、他の秘書達も頷いた。
「そうよね。それになんていうのかしら、プレゼンのセンスがいいわよね。カリスマ性があって話し方もスマート。政治家とか向いてそう」
「確かに!あと、俳優にも向いてそう」
「は?どういう意味よ、菜緒」
「だって、ただしゃべってるだけで見惚れちゃうんですもん」
まだ24歳の女性秘書の菜緒は、うっとりと両手で頬を押さえる。
「なんか、自信に満ち溢れてて余裕のある雰囲気とか、キリッとした大人の男って感じの色気がいいなー」
「まさか菜緒、狙ってる?」
30代の先輩達に囲まれ、菜緒は照れたように笑った。
「えー、狙えますかね?だったらいいなあ。少しでもお近づきになりたいです」
「そう言えば、副社長っておつき合いしてる女性いるのかしら。ねえ、村尾くん」
先輩に呼ばれて、パソコンの電源を落としていた村尾が顔を上げる。
「はい、なんですか?」
「副社長ってさ、彼女いるの?」
「ええー!?そんなの俺も知りませんよ」
「でもほら、村尾くん毎日車で副社長の送り迎えしてるでしょ?彼女がマンションで待ってたり、デートだからレストランに向かってくれ、とかないの?」
「ないですよ。いつも自宅マンションの往復です。あ、今日は夕べのパーティー会場だったホテルにお迎えに行きましたけど、お一人でしたよ」
ふーん、そうなんだ、と先輩達が納得する中、芹奈は一人ヒヤヒヤしていた。
(良かった、一人でさっさとホテルを出て。副社長は、何もなかったんだから普通に一緒に車で、なんておっしゃってたけど。やっぱりこんなに注目されてるのよね、副社長って。これからもなるべく接触しないようにしようっと)
そう思い、芹奈は話の輪から外れる。
そろそろ社長に声をかけて部屋に戻ろうと歩き出した時、「里見さん」と呼ばれて芹奈は振り返った。
「はい」
って、え!副社長!?
不自然な体勢で芹奈は固まる。
「これ、洗面台に忘れてたよ」
そう言って翔は芹奈の右手を掴み、何かを握らせるとギュッと両手で包み込んだ。
「落とさないようにね。じゃあ」
背を向けて去っていく翔を呆然と見送ったのは芹奈だけではない。
「ど、どういうことー!?」
その場の秘書全員が芹奈に詰め寄る。
「芹奈!手を開いてみて。ほら、パーにして!」
先輩に言われて、芹奈はゆっくりと右手を開いた。
そこにあったのは夕べのパーティーで着けていた、ひと粒ダイヤのネックレス。
(あっこれ。シャワーを浴びる前に外したんだった。良かったー。両親からの成人のお祝いにもらった大事なネックレスだもん。失くしたら大変だったな)
ホッとする芹奈と相反して、先輩達はざわつく。
「ど、どうしたの?これ。まさか副社長から?洗面台に忘れたって、誰のうちの?」
「いえ、あの。これは両親からもらったものです。洗面台っていうのは、夕べのパーティー会場のことで……」
「ああ、なるほど。って、変でしょ?なんでパーティー会場に洗面台があるのよ」
「それがなんかその辺に、手を洗えるちょっとした洗面台があったんですよねー。あはは!あっ、そろそろ社長をご案内しないと。それでは失礼します」
芹奈は一気にまくし立てて強引に話を締めると、急いで社長の元に駆け寄った。



