真っ赤な顔で部屋に戻った芹奈は、ドライヤーで髪を乾かし、服に着替えてメイクも整えた。
「あれ?もう浴衣着ないの?似合ってたのに」
翔が残念そうに言うが、これ以上何かされては身がもたないと、芹奈は澄ました顔で朝食を食べていた。
宿をチェックアウトすると、気の向くままにドライブを楽しむ。
湖や神社、滝や竹林などを見て回り、最後に海が見渡せる岬に立ち寄った。
夕暮れに染まる空と海を見ながら、言葉もなくその美しさに見とれる。
肩を寄せ合ってしばらく佇んだあと、翔は芹奈に向き直った。
「芹奈」
「はい」
「俺は君と出逢ってすぐに君に恋をした。明るい君の笑顔と、仕事中のひたむきな表情に惹かれていった。恥じらう顔も可愛くて、ずっとこの手で守ってやりたいと思った。その気持ちを打ち明けて君に断られた時、信じられない程落ち込んだ。だけど君の幸せを願って身を引く決心をしたんだ。忘れなければ、そう自分に言い聞かせた。だけど、無理だった」
芹奈はじっと翔の言葉に耳を傾ける。
「気持ちを押し殺していたけど、少しでも気を許すと君を抱きしめそうになった。一度触れたら、きっと手放せなかっただろう。君と仕事の話をしていても、まるで修行僧みたいに心を乱さないように必死だった。でもあの日、クリスマスイブにラウンジで偶然君を見かけて……」
そう言うと翔は少し視線をそらして嬉しそうに目を細めた。
「告白した時に君が俺に言った言葉は嘘だったと分かって、気持ちが一気に爆発したよ。溜め込んでいた想いが解き放たれたようだった。そして俺は固く心に決めたんだ。君を絶対に離さない。これから先どんなことがあっても、君のそばで君を守っていくと。だから芹奈」
翔は真っ直ぐ射抜くように芹奈を見つめて告げる。
「俺と結婚して欲しい」
芹奈は驚いて目を見開いた。
「たとえ今断られても諦めない。最初にフラれた時も、ずっと君を想い続けていたから誤解が解けたんだ。諦めなくて良かった、そう思った。だから今回も諦めない。君が今どんな気持ちでも、俺はずっと君を想い続けるよ。それが君との未来を掴むたった一つの道だから」
言いたいことはそれだけ、というように、最後に翔は優しく笑ってみせた。
「さてと、そろそろ帰ろうか」
吹っ切れたように言って引き返そうとする翔の手を、芹奈はキュッと握りしめる。
「芹奈?」
「お返事、させてください」
真剣に切り出した芹奈に、翔は目を見開く。
「いや、そんな。わざわざはっきり言わなくても分かってるから。出来ることなら、このままうやむやにしてくれた方が……」
何があっても芹奈のことは諦めないが、今はっきりノーと言われて傷つくのが翔は怖かった。
だが芹菜は首を振る。
「いいえ。こんな大切なこと、うやむやになんて出来ません」
そう言われて、翔は覚悟を決める。
芹奈の気持ちを受け入れ、それでも諦めずに想い続けてみせる。
ギュッと拳を握りしめると、芹奈と正面から向き合った。
「分かった。君の気持ちを聞かせて欲しい」
「はい。私はずっと仕事のことばかり考えてきました。誰かと恋愛したら仕事が疎かになってしまいそうで、恋人はいらない、好きな人も出来ない、そう思ってきました。副社長に、己を犠牲にしてまで会社に尽くして欲しくない、どうか素敵な恋愛をして欲しいって言われても、やっぱり現実的に恋は出来ませんでした。だから井口くんの告白も、副社長の告白も、心のシャッターを下ろすように断ってしまいました。だけど、そのあともずっと副社長は私を想ってくれていたのだと分かって、心の底から嬉しくなりました。ガチガチだった私の心を、あなたは温かく包んで溶かしてくださいました。大好きだよ、大切にするよって、ずっと私に伝え続けてくれるあなたを、私も大好きになりました。こんなこと、今までの人生になかったし、これからの人生にもありません。あなたにしか、私は心を惹かれることはないでしょう。だから……」
芹奈は優しく笑って翔を見上げる。
「あなたとずっとずっと一緒にいたいです。この先もずっと、あなたのそばにいさせてください」
「芹奈……」
翔は信じられない思いで目を潤ませた。
「受け入れてくれるの?この俺を」
「はい」
「もっともっと時間をかけて口説こうと思ってたのに?」
「もう充分、伝えてもらいましたから」
「決心してくれるの?こんな大切なことを」
「はい。だって、イエスの返事が私にとっての正解だから。でしょ?」
可愛らしく首を傾げる芹奈を、翔はたまらず強く胸に抱きしめる。
「ああ、正解だよ。俺といれば、毎日俺に愛されて笑顔でいられる。俺と結婚すれば、芹奈は必ず幸せになれる。俺が絶対に芹奈を幸せにしてみせるから」
「私もあなたを幸せにしたいです」
「ありがとう、芹奈。結婚しよう」
「はい」
胸に込み上げる気持ちのままに互いを抱きしめると、翔はそっと身体を離した。
「芹奈。これを受け取って欲しい」
そう言って翔がジャケットのポケットから取り出したケースに、芹奈は、え?と目をしばたたかせる。
「これって……」
もしかして、いやでも、まさか、と戸惑う芹奈に、翔はゆっくりとケースを開いて見せた。
「えっ!」
芹奈は驚きの余り言葉も出て来ない。
口元に両手をやって目を見開き、ケースの中央に輝くダイヤモンドの指輪に目を奪われた。
「どうして?だって、これ」
指輪のデザインには見覚えがある。
それは今、芹奈の左手首を飾っているブレスレットと同じ、フラワーモチーフの指輪だった。
「あのショップにまた行ってきたんだ。君に贈るエンゲージリングはこれしか考えられないから」
「だって、そんな。私達、つき合ってもなかったのに?」
なにせ芹奈が翔に好きだと告げたのは、夕べの出来事だったのだから。
「ん?ああ、そう言えばそうだね。だけど俺、芹奈が俺のことを好きでいてくれること、知ってたから」
「え、どういうこと?」
「まあ、いいから」
ふっと笑って翔はケースから指輪を取り、芹奈の左手薬指にそっとはめる。
「わあ、素敵……」
「ああ。芹奈の指によく似合ってる。ブレスレットもね」
「ありがとう、とっても嬉しいです」
「俺の方こそ、ありがとう芹奈」
翔は芹奈の頬に手を添えて、愛を込めたキスを贈る。
海風がふわっと二人を包み込んだ。
「寒くない?芹奈」
「うん、あったかい」
「そう」
二人は互いの身体をしっかりと抱きしめ、温もりを感じ、かすかな波の音を聞きながら幸せの余韻に浸っていた。
「あれ?もう浴衣着ないの?似合ってたのに」
翔が残念そうに言うが、これ以上何かされては身がもたないと、芹奈は澄ました顔で朝食を食べていた。
宿をチェックアウトすると、気の向くままにドライブを楽しむ。
湖や神社、滝や竹林などを見て回り、最後に海が見渡せる岬に立ち寄った。
夕暮れに染まる空と海を見ながら、言葉もなくその美しさに見とれる。
肩を寄せ合ってしばらく佇んだあと、翔は芹奈に向き直った。
「芹奈」
「はい」
「俺は君と出逢ってすぐに君に恋をした。明るい君の笑顔と、仕事中のひたむきな表情に惹かれていった。恥じらう顔も可愛くて、ずっとこの手で守ってやりたいと思った。その気持ちを打ち明けて君に断られた時、信じられない程落ち込んだ。だけど君の幸せを願って身を引く決心をしたんだ。忘れなければ、そう自分に言い聞かせた。だけど、無理だった」
芹奈はじっと翔の言葉に耳を傾ける。
「気持ちを押し殺していたけど、少しでも気を許すと君を抱きしめそうになった。一度触れたら、きっと手放せなかっただろう。君と仕事の話をしていても、まるで修行僧みたいに心を乱さないように必死だった。でもあの日、クリスマスイブにラウンジで偶然君を見かけて……」
そう言うと翔は少し視線をそらして嬉しそうに目を細めた。
「告白した時に君が俺に言った言葉は嘘だったと分かって、気持ちが一気に爆発したよ。溜め込んでいた想いが解き放たれたようだった。そして俺は固く心に決めたんだ。君を絶対に離さない。これから先どんなことがあっても、君のそばで君を守っていくと。だから芹奈」
翔は真っ直ぐ射抜くように芹奈を見つめて告げる。
「俺と結婚して欲しい」
芹奈は驚いて目を見開いた。
「たとえ今断られても諦めない。最初にフラれた時も、ずっと君を想い続けていたから誤解が解けたんだ。諦めなくて良かった、そう思った。だから今回も諦めない。君が今どんな気持ちでも、俺はずっと君を想い続けるよ。それが君との未来を掴むたった一つの道だから」
言いたいことはそれだけ、というように、最後に翔は優しく笑ってみせた。
「さてと、そろそろ帰ろうか」
吹っ切れたように言って引き返そうとする翔の手を、芹奈はキュッと握りしめる。
「芹奈?」
「お返事、させてください」
真剣に切り出した芹奈に、翔は目を見開く。
「いや、そんな。わざわざはっきり言わなくても分かってるから。出来ることなら、このままうやむやにしてくれた方が……」
何があっても芹奈のことは諦めないが、今はっきりノーと言われて傷つくのが翔は怖かった。
だが芹菜は首を振る。
「いいえ。こんな大切なこと、うやむやになんて出来ません」
そう言われて、翔は覚悟を決める。
芹奈の気持ちを受け入れ、それでも諦めずに想い続けてみせる。
ギュッと拳を握りしめると、芹奈と正面から向き合った。
「分かった。君の気持ちを聞かせて欲しい」
「はい。私はずっと仕事のことばかり考えてきました。誰かと恋愛したら仕事が疎かになってしまいそうで、恋人はいらない、好きな人も出来ない、そう思ってきました。副社長に、己を犠牲にしてまで会社に尽くして欲しくない、どうか素敵な恋愛をして欲しいって言われても、やっぱり現実的に恋は出来ませんでした。だから井口くんの告白も、副社長の告白も、心のシャッターを下ろすように断ってしまいました。だけど、そのあともずっと副社長は私を想ってくれていたのだと分かって、心の底から嬉しくなりました。ガチガチだった私の心を、あなたは温かく包んで溶かしてくださいました。大好きだよ、大切にするよって、ずっと私に伝え続けてくれるあなたを、私も大好きになりました。こんなこと、今までの人生になかったし、これからの人生にもありません。あなたにしか、私は心を惹かれることはないでしょう。だから……」
芹奈は優しく笑って翔を見上げる。
「あなたとずっとずっと一緒にいたいです。この先もずっと、あなたのそばにいさせてください」
「芹奈……」
翔は信じられない思いで目を潤ませた。
「受け入れてくれるの?この俺を」
「はい」
「もっともっと時間をかけて口説こうと思ってたのに?」
「もう充分、伝えてもらいましたから」
「決心してくれるの?こんな大切なことを」
「はい。だって、イエスの返事が私にとっての正解だから。でしょ?」
可愛らしく首を傾げる芹奈を、翔はたまらず強く胸に抱きしめる。
「ああ、正解だよ。俺といれば、毎日俺に愛されて笑顔でいられる。俺と結婚すれば、芹奈は必ず幸せになれる。俺が絶対に芹奈を幸せにしてみせるから」
「私もあなたを幸せにしたいです」
「ありがとう、芹奈。結婚しよう」
「はい」
胸に込み上げる気持ちのままに互いを抱きしめると、翔はそっと身体を離した。
「芹奈。これを受け取って欲しい」
そう言って翔がジャケットのポケットから取り出したケースに、芹奈は、え?と目をしばたたかせる。
「これって……」
もしかして、いやでも、まさか、と戸惑う芹奈に、翔はゆっくりとケースを開いて見せた。
「えっ!」
芹奈は驚きの余り言葉も出て来ない。
口元に両手をやって目を見開き、ケースの中央に輝くダイヤモンドの指輪に目を奪われた。
「どうして?だって、これ」
指輪のデザインには見覚えがある。
それは今、芹奈の左手首を飾っているブレスレットと同じ、フラワーモチーフの指輪だった。
「あのショップにまた行ってきたんだ。君に贈るエンゲージリングはこれしか考えられないから」
「だって、そんな。私達、つき合ってもなかったのに?」
なにせ芹奈が翔に好きだと告げたのは、夕べの出来事だったのだから。
「ん?ああ、そう言えばそうだね。だけど俺、芹奈が俺のことを好きでいてくれること、知ってたから」
「え、どういうこと?」
「まあ、いいから」
ふっと笑って翔はケースから指輪を取り、芹奈の左手薬指にそっとはめる。
「わあ、素敵……」
「ああ。芹奈の指によく似合ってる。ブレスレットもね」
「ありがとう、とっても嬉しいです」
「俺の方こそ、ありがとう芹奈」
翔は芹奈の頬に手を添えて、愛を込めたキスを贈る。
海風がふわっと二人を包み込んだ。
「寒くない?芹奈」
「うん、あったかい」
「そう」
二人は互いの身体をしっかりと抱きしめ、温もりを感じ、かすかな波の音を聞きながら幸せの余韻に浸っていた。



