距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「おはよう、芹奈。よく眠れた?」

翌朝。
いつものように6時に目覚めると、翔は優しく芹奈に笑いかける。

「おはようございます、副社長。はい、ぐっすり」
「俺も芹奈のおかげでよく眠れたよ。そろそろ起きる?」
「はい」

コーヒーとトーストの他にも、今日は芹奈がチーズオムレツとサラダを用意した。

「はあ、贅沢な朝食だな」
「そんな大げさな。これくらいで」
「いつもは食欲なくてコーヒーしか飲まないけど、芹奈が作ってくれる朝食なら毎朝食べたい」
「そ、そうですか。それは良かったですね」
「なに、照れてるの?」
「違います!」
「はは!さてと、食べたら早速出発しようか」

食器を片付けて戸締まりすると、翔の運転する車で伊豆へと向かう。

途中の道の駅で美味しい海鮮丼を食べ、動物園やガーデンなどの観光地に立ち寄り、夕方に宿に着いた。

「わあ、素敵なお部屋ですね。和室ってなんだか落ち着きます。奥の寝室は洋室なんですね。あっ、海が見える!ん?ひゃー、ウッドデッキに露天風呂!」

興奮して振り返る芹奈の笑顔に、翔も頬を緩める。

「早速入ってきたら?露天風呂」
「えっ、でも、見えちゃいませんか?お部屋の中から」
「うん、見えちゃうね」

芹奈は耳まで真っ赤になる。

「無理無理、ためだめ。入れません」
「せっかくなんだから、入りなよ。景色もいいし、のんびりひとり占め出来るよ?」
「だって、そしたら副社長は?お部屋の中にいるんでしょ?」
「うん。あ、なに?一緒に入りたい?」
「違います!」

はは!と翔は笑って、窓のカーテンを閉めた。

「ほら、これなら見えないから。安心して入っておいで」
「……覗きませんか?」
「大丈夫だよ。多分ね」
「多分!?」
「冗談だってば」

ようやく芹奈はタオルと浴衣を持って外に出る。

何度も部屋を振り返り、翔が覗いていないか確かめると、ササッと服を脱いでお湯に浸かった。

「はあ、気持ちいい」

ちょうど日が沈みかけ、刻々と空の色がグラデーションで変わっていく。

「なんて綺麗……。別世界に来たみたい」

湯船の縁に両腕を置き、その上に頭を載せてぼんやりと景色を眺める。
顔に当たる空気が程よく冷たくて、のぼせることなくいつまででも入っていられそうだった。

するといきなり、ガチャッと部屋に続く扉が開いた。

「芹奈!?」
「ギャー!」

顔を覗かせた翔に、芹奈はバシャッとお湯をかける。

「覗かないって言ったのに!」
「ごめん。あんまり長いから心配になって。カーテンの隙間から、ぐったりしてる君が見えたから、またのぼせたのかと思った。大丈夫?」
「のぼせてないから、とにかく見ないで!」
「ああ、分かったって」

両手で身体を隠しながら、涙目で訴える芹奈に、翔はようやく部屋に戻った。