「夕食は何がいい?あ、まだ時間も早いし、映画館にでも行こうか」

翔はウキウキとハンドルを握りながら芹奈に話しかける。

先程、荷物を持って再びエントランスに現れた芹奈に、翔は満面の笑みを浮かべて熱烈歓迎した。

(内心はドキドキだったもんな。良かったー、来てくれて。この3日間は絶対に離さないぞ)

そう思ってチラリと芹奈を見ると、芹奈は何やら真剣な顔で考え込んでいる。

「どうかした?映画館は嫌?」
「いえ、そうではなくて。この案件はクーリングオフ制度が適応されるのかどうかと……」
「どの案件?もしかして、仕事で何かあった?」
「いえ、抱き枕です」

は?と翔は芹奈に顔を向ける。

「副社長、前を向いて運転してください」
「ああ、うん」

翔はまたもや、なんだ?と首をひねりながら、ハンドルを握っていた。

ショッピングモールに車を停めて、映画館に入る。

ちょうど上映時間が合うアクションムービーを觀ることにした。

ポップコーンを食べながら、派手なカーチェイスやテンポの良いジョークを楽しみ、あっという間にエンドロールになった。

「あー、面白かった!やっぱりハリウッド映画って迫力ありますね。日本じゃ絶対に撮影出来ないだろうな」
「確かにド派手だよな。実際のパトカーも、すごいスピードで犯人の車を追いかけたりする。消防車なんかも、ここぞとばかりにかっ飛ばして行くし」
「へえ。日本では『右折しまーす。ご協力ありがとうございまーす』って丁寧にマイクで言ってたりしますよね」
「あんなんじゃないない。オラオラどけどけー!って感じ」

翔の口ぶりに、芹奈は、あはは!と笑う。

「でも副社長。やっぱり英語の方が分かりやすかったりしますか?字幕が出る前に笑ってたりしたから」
「ん?ああ、耳に入ると思わずな。ほら、字幕って秒数とか文字数の関係で、きっちり全部翻訳されてないからさ」
「ああ、そうですよね。それに翻訳者のセンスってあると思いません?そのジョークをそう訳すのか、上手い!みたいな」
「あるある!直訳しないでちょっと意訳してると、言葉選びに感心したりしてな」

休憩に入ったカフェでも映画の感想で盛り上がり、少し早めの夕食も食べてから、車で翔のマンションに帰った。