距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

ワンルームマンションに着くと、芹奈は翔の手を借りて車を降りる。

「副社長、送ってくださってありがとうございました。今年も大変お世話になりました。来年もどうぞ……」
「いや、まだ早い」

年末の挨拶を遮られ、芹奈は、は?と顔を上げる。

「2泊分の着替えを持っておいで。ここで待ってるから」
「……は?あの、一体なぜ?」
「これから3日間、俺と一緒に過ごすから」
「はい!?あの、どういうことでしょうか?」

全くの理解不能な翔の言葉に、芹奈の思考回路はおかしくなった。

「そのままだよ。嫌なら気にしないで。下りて来なくていいから。じゃあ、車で待ってる」

スタスタと引き返し、車のドアをパタンと閉めた翔に、芹奈は呆然と立ち尽くす。

ポカンとしていると、運転席の翔がハンドルに両手を載せ、にっこり笑いかけてくるのがフロントガラス越しに見えた。

(いやいやいや、おかしいでしょ?どういうこと?)

そう思いながら、とにかく芹奈は部屋に行く。

「嫌なら下りて来なくていいから、待ってるって。日本語おかしくない?副社長、英語で言ってみてよ」

愚痴をこぼしつつ、頭の半分は冷静に「2泊分の着替えね」と考えながらバッグに詰めた。

「これから3日間、一緒に過ごす?それって、明日の温泉宿もってこと?抱き枕の出張かしら」

チラリと左手首のブレスレットに目をやる。

「え、もしかして!このブレスレットとプレゼント交換したってことは、私は未来永劫、抱き枕のお役を務めなくてはいけないの?なんてこと……」

それは困る。
ここはクーリングオフについて相談させてもらおう。

芹奈は頷くと、荷物を持って再びエントランスに向かった。