距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

タクシーが高速道路を下りると、これまで何度か訪れたみなとみらいは、辺り一帯がクリスマスの装飾で飾られていた。
その上今夜は、多くのカップルが行き交っている。

「すごいですね。見渡す限りカップルだらけ。わあ、イルミネーションが綺麗!ツリーも大きくてとっても素敵」

芹奈は興奮気味に翔を振り返り、そんな芹奈の笑顔に翔も目を細めた。

「人が多くて危ないから、こっちにおいで。迷子にならないようにな」

さり気なく手を繋いでも、芹奈は周りに見とれて気にしていないようだった。
翔はもはやニヤニヤが止まらない。

「じゃあ、まずはこのお店から視察しようかな」

そう言って、有名なジュエリーショップに入った。

「いらっしゃいませ。指輪をお探しですか?」

スタッフが笑顔で声をかけてくる。
目の前のショーケースには眩いばかりの指輪がズラリと並び、たくさんのカップルが肩を寄せ合って楽しそうに選んでいた。

「やっぱりクリスマスプレゼントと言えば、指輪なんでしょうか?」

芹奈が尋ねると、そうですね、とスタッフはにこやかに頷く。

「クリスマスイブにプロポーズをされて、今夜改めて婚約指輪をお探しになるカップルの方が多いです。ご覧の通り、店内は普段よりも随分賑わっていますし」
「そうですよね。クリスマスの経済効果たるや、ジュエリーブランドにとっても……」

真顔で話し続ける芹奈を、翔は横から遮った。

「あー、ほら。君も好きな指輪を選んで」
「ん?ああ!そうでしたね。えっと、では最近の流行のデザインと売れ筋の価格帯を……」
「そういうのはいいから!じゃあ、これ。ちょっとはめてみて」

翔が指差した指輪を、スタッフが手袋をはめた手でケースから取り出した。

「その前にお嬢様、指のサイズを測らせていただけますか?」
「はい、どうぞ」
「あ、左手をお願いします」

スタッフは芹奈の左手薬指のサイズを測り、6号ですね、と翔にささやく。

「お嬢様、ではこちらの指輪をどうぞ」

芹奈はそっと指輪をはめてみた。

「わあ、とっても綺麗な指輪ですね」
「ええ。こちらはダイヤモンドが最も美しく見えると言われるラウンドブリリアントカットで、カラーやクラリティも最高品質のものです。何より2カラットですからね、婚約指輪としてはこれ以上ないほどですわ」
「なるほど。ですが売れ行きとしては、もっとお手頃な価格のものの方がいいですよね?」
「そ、そうですわね。こちらの指輪などは、皆様によく選んでいただいています。ダイヤモンドも主張し過ぎず、普段使いもしやすいということで」
「確かに。これくらいのお値段が一番ポピュラーなんでしょうね。ちなみに今夜ひと晩でいくつくらい売れる……」

わー、もういいから!と、翔が横から手で遮る。

「じゃあ、違うコーナーも見てみようか。ね?」

翔は相手をしてくれたスタッフに目で詫び、芹奈の肩を抱いてブレスレットのコーナーに行く。
そこは比較的空いていた。

「君、いつも綺麗なダイヤのネックレス着けてるよね。それって男性からのプレゼントだったの?」
「違います。成人のお祝いに両親から贈られたものです」
「そうだったんだ!それなら良かった」
「ん?どうしてですか?」
「まあ、いいからさ。じゃあ、君へのプレゼントはネックレスではなくて、ブレスレットにしようかな。どのデザインがいい?」
「あ、調査ですか?それなら店員さんに売れ筋を聞いてみましょうか」
「売れ筋はいいの!君の好みは?」

怪訝そうにする芹奈に、「ほら、店員さん来たからお芝居して」と翔は小声でささやく。

「分かりました。えーっと、そうね。これなんかどうかしら?」

なぜだかマダム口調になる芹奈に、翔も合わせて頷く。

「ああ、いいね。君の細くて綺麗な手首によく似合いそうだな」
「試してみてもいいかしら?」
「もちろんだよ」

スタッフが、「こちらですね」と言ってケースからブレスレットを取り出し、芹奈の手首に着ける。

「わあ、素敵」
「うん。よく似合ってる」

シンプルながらダイヤモンドが所々に華やかに彩っている。

「こちらはフラワーモチーフになっておりまして、同じモチーフの指輪もございます」
「そうなんですね。とっても綺麗……」

しばし見とれてから、「ありがとうございました」と芹奈はブレスレットを外してスタッフに返した。

もう一度指輪のコーナーに戻ると、芹奈はスパイ活動のように目を光らせながら翔にささやく。

「副社長。私が見た限りでは、大体この価格帯の指輪が人気のようです。先程から次々と売れております」
「なるほど。値段を抑えつつ魅力的なデザインと高品質の商品を考えることが重要なんだな」
「おっしゃる通りです」

真面目な口調に吹き出しそうになりつつ、翔はなんとかスパイ活動を全うして店を出た。