距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「このあと俺と一緒に、村尾の車で出社する?」
「しません!」

朝食にコーヒーとトーストを食べながら翔が尋ねると、芹奈は即座に断る。

「じゃあ、仕事終わりに副社長室に来て」
「ど、どうしてですか?」
「ん?副社長指示だけど、何か?」
「いえ」

芹奈は仕事モードに切り替えると、使った食器を洗い、身支度を整えて翔を振り返った。

「それでは副社長。私はお先に失礼いたします。お世話になりました」
「いいえ。じゃあ、また会社で」
「はい。それでは」

お辞儀をすると芹奈は部屋を出る。

(別れ際の副社長はやけにあっさりだったな。まあ、良かったけど)

そう思いながら、徒歩で会社に向かった。
まだガランと静まり返っているフロアを進み、更衣室で服を着替える。

(そういえば、今日はクリスマスか。みんなオシャレしてるんだろうな。スーツだと浮いちゃうかも?)

手に取ったスーツをロッカーに戻し、フレアスカートとブラウスにジャケットを合わせた。

秘書室でパソコンを立ち上げてしばらく作業していると、他のメンバーも出社してくる。

「芹奈さん、おはようございます」
「おはよう、菜緒ちゃん。合コンは楽しかった?」
「はい。ふふふ、井口さんがね……」

するとすぐあとから現れた井口が、「菜緒ちゃん!」と止める。

(菜緒ちゃん!?井口くん、いつもは松村さんって呼んでたよね?)

おやおや、これはー?と芹奈はほくそ笑む。

「いいじゃないですか、ちょっとくらい」
「だめ!内緒にする約束でしょ?」

なんだかじゃれ合うような菜緒と井口に、芹奈はムフフと笑いを堪えていた。