距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

「それじゃあ、メリークリスマス」

ソファに並んで座り、ワインで乾杯する。
翔は芹奈の肩を抱き、片時も離そうとしなかった。

そーっと身体を離そうとすると、グイッと強く抱き寄せられ、お仕置きな?と物語る目でにっこりと笑いかけられる。

芹奈は顔を引きつらせながら、おとなしく抱かれていた。

「顔が赤いね。もう酔った?」

そう言って覗き込んでくる翔に、芹奈は更に頬を赤らめる。

「ん?もしかして、緊張してる?」
「だって、近すぎて……」
「ふっ、可愛い」

耳元でささやかれ、芹奈はもう耐えられないとばかりに翔を見上げた。

「副社長、あの……」
「どうしたの?目が潤んでる」
「お願いだから少し離れてください。その、恥ずかしくて」
「ごめん。でも離したくないんだ」
「そんな……」
「じゃあ、顔見ないから」

そう言って翔は、芹奈の頭を優しく胸に抱き寄せる。

「もう少しだけ。ね?」

甘くささやかれて、芹奈は小さく頷いた。

「ありがとう」

翔は芹奈の髪を愛おしそうになでる。

「いつからこんなに好きだったんだろう。告白して断られてから、きっぱり諦めたつもりだった。でも想いはずっと募ってたんだと思う。あの時よりも、もっともっと君が好きでたまらない」

ギュッと腕に力を込めてから、翔はそっと芹奈の身体を離した。

「あんまりしつこいと嫌われるな。ごめん。お腹減ったよね?食べようか」
「はい」

芹奈がひと言返事をしただけで、翔は嬉しそうな笑顔を浮かべる。

豪華なクリスマスのごちそうを食べながら、芹奈もようやくいつもの調子を取り戻した。

「あの、副社長」
「ん?なに」
「えっと、どうして私が井口くんとつき合ってると勘違いされたんですか?」
「ああ、それはね。井口くんが君に告白したのを知ってたから」
「そうなんですか?」
「うん。だけど君がなんて返事をしたのかは知らなくて。もしかしてOKしたのかも?って思ったんだ」

そうでしたか、と芹奈はうつむいた。

「私、井口くんに、仕事のことしか考えられないから、誰ともおつき合い出来ないって答えたんです。そしたら納得してくれなくて。嫌いだからって断られた訳じゃないんですね?他の誰でも断るんですよね?って。最初から、他に好きな人がいるって嘘ついた方が良かったなって後悔したんです。だから副社長には、あんなことを言ってしまって……」
「そうだったんだ」
「はい。本当にすみませんでした」
「謝らなくていい。そうか、そういう理由だったのか」

翔は、うつむく芹奈の顔を覗き込んで優しく笑う。

「そうと分かったら、ますます君が愛おしくなった」

ポンと頭に手を置かれ、芹奈は真っ赤になる。

「あはは!可愛いなあ」

またしても芹奈は顔を上げられなくなり、視線を落としたまま恥ずかしそうに固まっていた。