距離感ゼロ 〜副社長と私の恋の攻防戦〜

タクシーでマンションに向かう間もしっかりと手を握られ、芹奈は半泣きになる。

(うっ、怖いよう。そりゃ、副社長ともあろうお方に嘘をついた私がいけないんだけど。でもあの時はそうするしか思い浮かばなくて……)

どうしたら許してもらえるだろう。
とにかく謝るしかない、と芹奈は思い詰めた。

「着いたよ」

そう言うと翔は芹奈の手を取ってタクシーを降り、手を繋いだままエレベーターで最上階まで上がる。

玄関のドアを開けて中に入ると、翔はいきなり芹奈を抱きしめ、そのまま壁に押し付けた。

「あの、副社長。本当にすみませんでした。私……」
「黙って」
「え?」

芹奈はされるがままに立ち尽くす。
すると切なげな声で翔がささやいた。

「良かった……。俺、今心の底からホッとしてる。君が誰のところにも行ってなくて……。心の底から嬉しさが込み上げてくる。君が他の誰にも奪われなくて……。今、俺、心の底から君が好きだ」
「副社長……」
「君が今、俺のことを好きじゃなくても構わない。俺は必ず君を振り向かせる。もう容赦しない。本気で君を口説くから。口説いてもいいんだって、そのことがただ嬉しいんだ」

そう言うと身体を起こし、優しく芹奈に笑いかける。

「じゃあ、お仕置きな?」
「は、な、何?」

翔の笑顔とセリフが一致せず、芹奈の頭は混乱する。

「今夜ひと晩、つき合って」
「え、何に?」
「だから、お仕置き。ほら、上がって」

訳も分からず靴を脱ぐと、翔は芹奈をソファに座らせた。

「クリスマスメニューをデリバリーで頼むから。ワイン飲みながら待とうか」

にっこり笑う翔に、芹奈はもはや頷くしかなかった。