『ヨム』なんて、顔出しもしてないし、匿名性の高いSNSだから出来た事。『森文香』として大勢の前で朗読するなんて、とても……とても、無理だ。

 だめだ、泣きそう。剛里さんの前でなんか泣きたくないけど、目に涙が滲んでくる。それに上手く息が出来ない……

 その時、誰かがぐいと私の腕を引いた。驚いて振り返ると、そこに立っていたのは朔間くんだった。

「大丈夫か? 倒れるかと思った」

「う、うん……大丈夫……」

 倒れないように膝に力を入れた。でも朔間くんは掴んでいる腕を離さなかった。

「剛里、森さん具合い悪そうだから、保健室に連れていくけどいいだろ?」

 突然の朔間くんの乱入に、剛里希星も気圧されてしまったようだ。「別に、好きにすれば」と言って、ぷいっと取り巻きたちと離れていってしまった。でも、私たちの騒動に、クラスの皆が注目している。

 朔間くんはそんなの気にしてないみたいで、私の腕を掴んだまま教室を出る。どうやら本当に保健室へ行こうとしているみたいだ。

「あの……私、大丈夫だから……」

「でもさっき真っ青な顔してたし、やっぱ保健室で少し休んだ方がいい」

「うん……」

 正直なところ、授業に出る気分ではなかった。だから朔間くんに言われるまま、保健室へ向かった。

 保健室には誰もいなかった。ドアの所に離席中の札がかかってたから、先生はすぐ戻ってくるとは思うけど。それまでベッドで休ませてもらう事にした。

 私がベッドに腰掛けると、朔間くんはその前に立った。

「大丈夫か?」

 心配してくれた朔間くんの言葉に、私はうつむいたままなんとか頷いて返した。

「……あのさ、聞こえちゃったんだけど、朗読コンテストに出るのか?」

 朔間くんにも聞こえちゃってたんだ。剛里さんたちの声、大きかったから。きっと教室中の人たちに聞こえちゃってただろうな。