「それは……酷いな」

 ぽつりとレグルスさまがつぶやいた。それに同意するように、ブレンさまもうなずく。

 わたくしもうなずいてしまった。クロエの才能は一番抜きん出ていると思っていたのだけど……だから、目を付けられてマティス殿下の主治医に?

「それに私、貴族ではありませんから」
「え? そうだったのかい?」

 レグルスさまが驚いたように目を丸くした。

 彼女の出身について、わたくしは詳しくない。ただ、とても優秀で真面目な人。そして――正義感が強いということだけは知っている。

「私は――孤児院出身なんです」
「孤児院から、医者へ?」
「はい。孤児院で毎月行われるテストで一位をキープしていたら、声がかかりまして。医者なら稼げると思い……まぁ、こんな性格ですので、煙たがれているんですけどね」

 肩をすくめてから、お代わりのコーヒーを飲むクロエに、わたくしたちは顔を見合わせた。

 カフェオレを飲み終えてしまったから、わたくしもお代わりを注文する。レグルスさまもコーヒーを飲み終えたからお代わりをした。

 ブレンさまは相変わらずパフェを美味しそうに食べている。

「ですので、このままここに居るのもどうかなぁと考えていまして! 転職しようかと!」
「転職?」
「はい。医者をやめて侍女に!」

 わたくしを見てにっこりと微笑むクロエに、心がざわついた。

 だって、だってそれは……わたくしとともに、リンブルグへ行ってくれるということよね……?