わたくしは彼に、これまでのことをすべて話した。ベネット公爵家で受けていた扱いも、どんなことを考えて生きていたかを。

「――こんな思いをするために、わたくしは生まれたのですか?」

 最後にそう(たず)ねた。情けないことに、涙声になってしまったわ。それでも、涙は流さない。

 レグルスさまがわたくしに近付いて、そっと肩に手を置いた。

 じんわりと広がる彼の体温に、そっと目を伏せる。

「――そんな、ことが……」
「入れ替わったことに気付いたお父さまが、ノランさまに話したと聞いています。そして、ノランさまがマーセルを手放さなかったということも」
「それは……っ」

 カースティン男爵の瞳が揺れた。ぐっと下唇を噛み締めて、じわりと血がにじむのを見て彼の中でいろいろな葛藤(かっとう)があるのだろうと考える。

「――……きみたちが生まれる前、カースティン家は借金に苦しんでいた」

 ぽつりと言葉をこぼすカースティン男爵に、わたくしは顔を上げた。マーセルもわたくしの隣にきて、「借金?」と眉間に皺を刻む。

「立ち上げた事業がうまくいかなくて……。オリヴィエにも相当苦労させてしまった。そんなとき、陛下から子どもを入れ替えることを提案されて……飛びついてしまった……」

 淡々と言葉を紡ぐのを複雑な表情で見つめるマーセル。

 どうやら、借金を返したくてその提案に飛びついたようだった。ゆっくりと息を吐き、陛下とどのようなやりとりがあったのかを教えてくれた。