「花祭りで、花姫として陛下と踊ったあとに、ちょっとだけ胸に痛みが走りました。緊張していたからかもしれませんけど……」

 やっぱり今回の件、陛下が関わっているのかしら。

 だとしたら、どうして……?

 わたしが黙り込んで考えていると、ブレンさまがじーっとマーセルとわたくしを交互に見る。

 そして、「ちょっと試したいことがあるのですが……」とにっこり微笑んだ。

「試したいこと?」
「一時的に、カミラさまとマーセル嬢をもとに戻せるかもしれません」
「えっ!?」
「魂に絡んでいる糸が見えます。それを戻せば、たぶん……。ただ、本当に一時的です。試してみますか?」

 わたくしとマーセルは顔を見合わせて、それからブレンさまへ視線を移し、こくりとうなずく。

 クロエは心配そうな表情でわたくしたちを見ている。

 それでも、止めることはしなかった。

 ブレンさまがわたくしたちに近付いて、「目を閉じてください」と柔らかい声色で伝える。そっと目を閉じて、彼がなにかをするのを待つ。

「クロエさん、ちょっと魔力を借りても良いですか?」
「え? あ、はい。もちろん」

 魔力を借りる? ブレンさまは人の魔力を借りることができるの?

 そんなことができるなんて、あまり聞いたことがない。

 わたくしとマーセルはただじっと待っていた。

 そっと手に温かさを感じた。それが身体中に巡り、ぽかぽかと温かくなる。

 パチン、となにかが弾けたような感覚に襲われた。

 なにかにぐいっと引っ張られるような感覚もある。

「はい、目を開けてください。……戻っていますか?」

 ゆっくりと目を開けると、首をかしげて問うブレンさまが視界に入る。隣を見ると――正真正銘の、マーセルがいた。

 わたくしたちは互いを見つめ合って、息を()む。

「ブレンさまは素晴らしい魔術師なのですね……」
「いやいや、僕の家族ならたぶん、一発で戻すことができますよ。それよりも、カミラさま。少しよろしいですか? その姿で、一度レグルスさまにお会いしてほしいのですが……」
「……! あ、そ、そうね。いつ戻るかわからないもの……今、行ってくるわ」
「それには及びません。レグルスさまを呼びますので」