名も無き君へ捧ぐ


首を傾げる。


(どうしたんだろう)


汐里は恐る恐る水やりをする旺次郎の隣に行く。

しゃがみこみ、花を覗く。


水滴がついた水色の小さな花達は、ゆらゆら揺れ、くすぐったそうに笑っているようだった。


旺次郎もしゃがみこみ、花を眺めた。


「........ごめんな」

ぼそっと呟くような、やっと聞き取れるくらいの小さな声が聞こえた。


それは花に向けて言っているのか、彼女に向けて言っているのか、分からないムスッとしたままの表情。


汐里はどぎまぎしていた。


やはり、まだ抵抗がある。



「アオゾラヒメって、おまえが付けたの?」

「そうだよ」

「へー。いいんじゃねぇの....。じゃあな」

「え?」


それだけ言うと、目を合わすことなく、ジョウロを持って走って行ってしまった。


汐里はポカンと口が開いたままだ。


「変なのー」


旺次郎がいなくなって、また汐里は花を眺めた。



「いいんじゃねぇのー、だって。ふふふ」


さっきの言葉を真似して笑った。





ポカポカした温かい気持ちになったのは、きっと春の日差しだけのせいじゃないと、何となく思ったのだった。