名も無き君へ捧ぐ


翌日、学校の終わりに汐里と園子はまた丘を目指した。


あの小さな花を探しに。




2人は一緒に歌を歌いながら、小走りで丘までのあぜ道を行く。





ところが、汐里は丘に辿り着くなり顔色が青ざめた。



男の子数人が丘を滑り台代わりにして遊んでいたのだ。

汐里達の学級の、やんちゃな男の子達だ。



大人しい2人は、遠巻きに眺めるだけで何も言えなかった。




「滑りやすいように、ここら辺の草潰そうぜ!」


乱暴に足で踏み荒らす様子に、いてもたってもいられなくなった汐里は、引き止める園子を振り払って男の子達に駆け寄った。



「やめて!!」

「なんだよ!邪魔すんな!」

「花が咲いてるの!潰さないで」


出せる限りの大きな声で叫ぶ。


「どうせ雑草だろ!いらねーんだよ」


聞く耳など全くない。
睨みつけ、怒鳴る声に足が震えた。

それでも汐里は諦め切れずに立ち向かう。


「お願い!やめて!」

「うるせーよ!あっちいってろ」



ドンッ



「きゃあっ」


突き飛ばされ、汐里は倒れ込んだ。


「ははは、どんくせー」

「お前なんか、知らねー」

「もう、来んじゃねえよ」


矢継ぎ早に、罵声が飛ぶ。

うずくまる汐里に園子が駆け寄った。


「汐里ちゃん、大丈夫?もう帰ろう、帰ろうよ」

「ううっ....、う、うわぁぁぁん」



傷が痛くて泣いた訳じゃない。
怖くて泣いた訳じゃない。
あの花を守ってあげられなかったことが、悔しくてたまらくて泣いたのだった。