名も無き君へ捧ぐ


「珍しい、突然お墓参り行きたいなんて」

「結局去年、お盆にも行けなかったし、お正月も帰れなかったし」



妹と一緒に祖父母のお墓参りに来ている。

バスを約40分乗り、高い丘の上にある霊園。



「あんたの料理も食べたかったしね」

「もーちゃっかりしてるよね。今日はロールキャベツだよ」

「おっ!いいね!」



両親は私達が小学校低学年の頃に離婚した。


何度も喧嘩している姿があった家に、いい思い出があるはずもなく、私達は母方の祖父母の家によく逃げ込んでいた。


そのうち一緒に暮らすようになり、高校を卒業する頃には大学進学と共に家を出た。


それから間もなくして、祖父が、後を追うように祖母が亡くなった。


私達姉妹にとって、2人は親代わりといっても過言ではなかった。




「おばあちゃーんおじいちゃーん、来たよ」



新しい水に入れ替えた花瓶に花を差す。

ピンク色のチューリップも入った、春らしく華やかな彩り。


「あ、ねぇねぇ、これ懐かしくない?」


妹の奈子(なこ)がしゃがみ込んで地面に向かって指を差している。
私も側に行きしゃがんで覗く。


「どれ?」

「これ、アオゾラヒメ」

「あ、本当だ!こんなところにも咲いてるんだね」



通路の隅にひっそり咲く花。
細い茎の先に実をつける、僅か数ミリの水色をした5枚の花弁。
真ん中は黄色の鱗片。
配色がクレヨンのような明るさだ。