名も無き君へ捧ぐ


「知らなくて当然ですよ。前世の記憶は今世に持って来れない仕組みにはなっていますから。通常必要ないものですからね」

「ふーん。で、私が冬弥に何かしたの?」

「助けてくれたんです。守ってくれたといえば、いいですかね」

「そうなの?あれ、それって私が冬弥の守護霊みたいだね逆パターン」

「みたいですね。雑草だと扱われて踏み潰されそうになっていたとこを、杏さんが守ってくれたんです」

「全然記憶にないけど....、そうだったんだ」

「すごく嬉しかったんです。花の命は短きものです。それでも命は等しく、生まれてやがて死ぬ。長いか短いか、それだけの違い。杏さんが花に向けてくれた気持ちがどんなに嬉しかったか」


足を止め冬弥は空を見上げた。


‎桜並木の天井の隙間から、星がチカッと光って見えた。



「僕は、この子を護れる存在になりたいと思うようになりました。命あるものは、輪廻転生を繰り返し、いつか巡り会うことが出来る。それが(えにし)

「冬弥と出会えたのも、縁じゃないの?」


私の言葉にどこか憂いげに微笑んだ。


「縁ですよ。それも、永遠の。僕は、杏さんの先祖では無いんです。本当にただの野原に咲いている花の精霊でしたから。縁として人間に生まれ変わる道はありました。でも、僕はその道を選びませんでした。先祖ではない、ましてや花の精霊が人の守護霊になることなんて前代未聞のことでした」

「それじゃあ....」