名も無き君へ捧ぐ


「僕、あなたの守護霊なんです。あなたがこの世に生まれてからずっと、陰で守ってきたんです。そそっかしいもんだから、そりゃあもう忙しくて息つく暇もなかったんすよ?」

「それは、どうも、すみませんでしたね」

またイラっときて、抑揚のない声で返す。


「今だから言いますけどねー」

文句タラタラと彼は話し続ける。
私が幼い頃から危ない目に遭っては難を逃れてきたということで、それがまるで自分のお陰だと言わんばかりなのだ。

「信じられないのも無理はないです。でも今日のことだってそうですよ。僕がいなかったら、どうなっていたと思います?」

歩道に落ちた鉄パイプ。
暴走した逆走車。

そこに彼は居合わせた。
ただの偶然とは思えない。


「じゃ、ただの通せんぼだったわけじゃないんだね」

「何です、その通せんぼって。僕は任務を全うしただけですけどね」


偉そうな態度は変わらないが、自慢げに言うもんだから何となく可愛らしく思えてきた。

守護霊?
お化け?
確かに私は心霊系は大の苦手だ。
なのにこんなお気楽に会話している世界、どうかしている。
どうかしすぎて笑えてきた。
不思議とちっとも怖くない。


グラスに残ったワインを豪快に飲み干す。