名も無き君へ捧ぐ


「だって、桜はまだ全然咲いてなかったよ。満開なんて信じられない....」

「それだと、ユーレイを信じない、というのにも似てるかもしれないですね」


やれやれといった具合に両手を上げる。


「冬弥は、信じてるよ。ウザイし、生意気だし、上から目線だし。何様って感じだし。でもさ、やっぱりこの世に存在しないなんて、それこそ信じられないんだよ。ずっと、私と一緒に居たんだよね。目に見えなかっただけで、本当はずっと一緒に過ごしてた。生きてた....」


何が言いたいのか、よく自分でも分からなくなったまま、目頭が熱くなっていた。


「信じてもらえますか?」



冬弥の声色が少し震えていた。


桜の光に照らされた見つめる瞳は、まっすぐに私を捕えて離さない。

射抜かれるようで、戸惑いが隠せない。


「....うん」


つい、視線を逸らし桜の花びらにそっと指で触れる。

指先には確かに感触がある。



幻ではないことは確かだ。




「今夜、特別に桜の精霊の力をお借りしました」

「そんなことも出来るの?やっぱり、魔法使えるんじゃ....」

「魔法と似てるんですけどね、僕らの存在と魔法使いは定義が違うので」

「そうなの?いやぁ不思議だ」

「ホワイトデーといいますか、黄泉の国のお土産といいますか....」



冬弥は照れくさそうに頭をポリポリしながら言う。

ベタなのに、それがまた可愛いので憎めない。